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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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 朝もやのけむる静かな泉のほとりに、木剣を打ちあわせる音が響く。


「でいやっ!」


 ディルが気合いとともに切っ先を突きだしてくる。

 弾き受けしようとアッシュが木剣を動かしたとたんに、それまで直線的だった切っ先の軌道がぬるりと変化した。

 かわしきれずに肩を突かれる。


 軌道変化によって勢いがそがれたことで威力は控えめだったが、アッシュは思わず「うっ」と息を漏らしてしまう。


「へへっ、またオレの勝ち~!」


 ディルが得意げに胸をそらした。


 毎日のように日課として行っている稽古の最中である。

 あくまで稽古ではあるものの、先ほどからディルが優勢だ。

 最近ずっとそうだ。

 ディルの成長には目覚ましいものがあり、少しずつ差をつけられ、置いていかれている気がする。


 今の突きも、命中を確信していたディルはケガをさせないようにあえてダメージの少ない部位を狙う余裕があった。

 もしこれが真剣で、急所を狙われていたら……

 そう考えると焦る。


 ディルは肩、肘、膝、腰、手首の使い方が柔らかく、打ちこみながら巧みに剣筋を変化させる。

 まるで蛇みたいにトリッキーで予測できない動きをする。


 これはサビーヌが教えた技術ではない。


 サビーヌの剣はもっとシンプルで、突くにしても斬るにしてもつねに最短、最速を重視し、敵の反応を許さない神速を尊ぶ。


 サビーヌは、ディルが思いついた技を披露しても関心を示さなかった。


「邪剣ね」


 の一言で済ませて、べつにやめさせたり矯正したりせず好きにやらせる。

 しかし、それをアッシュが真似するとたちまち叱ってくる。


「やめなさい」

「なんで?」

「ディリリアは自分の剣を探さなきゃいけないの。あなたにはそんな必要ない」

「どうして?」

「どうしても。自分で考えなさい」


 あれをしろ、これをするな、というのにその理由は教えてくれない。


 何もかもを懇切丁寧に教えることが当然のことになったチュートリアルな時代に慣れ親しんでいたアッシュからすれば、この指導姿勢を前時代的で理不尽なものに感じてしまう。


 それはそれとして、アッシュは楽しくもあった。

 創意工夫をして日に日に伸びていくディルとの稽古にはいつも新鮮な驚きがあり、置いていかれたくないという気持ちがモチベーションにもなる。


 実力の近いもの同士で切磋琢磨できるとは、なんて恵まれているのだろう。

 これがライバル関係というやつか!




 稽古終わりには育筋草を食べる。

 いちいち調理するのも面倒なので、近頃は生のままかじるようになった。

 慣れてくると苦味とえぐみも気にならない。

 むしろ効いている感があって心地よく感じるようになってきた。


「よく毎日食べれるよなぁ、そんな草」

「筋肉の育成にいいんだよ。ディルも食べたほうがいいよ」

「やだよ。まずいし、腹壊したし」


 ディルは心底から嫌そうに顔を歪めた。

 前にすすめたときにちょっと食べてみたら、翌日ひどい腹痛と下痢に1日中悩まされたらしい。


「たまたまかもしれないし、もう1回食べてみたら……」


 言いながら、アッシュは途中で人影に気づいて言葉を切った。


 鬱蒼と茂った木々のあいだから、ローブのフードを目深にかぶった小柄な旅人がひょっこり姿を現したのだ。


 最初、旅人が山に迷いこんできたのかと思った。

 街道が山をぐるりと迂回しているため、距離ロスを嫌がったせっかちな旅人が山をショートカットしようとしてたまに迷いこんでくる。


 しかし、旅人のフードから金色の束が1房こぼれでているのを見てアッシュの胸は高鳴った。


 あの髪には見覚えがある。

 手に携えているねじくれた厳めしい杖にも。


 ローブの人物は、アッシュとディルを交互にじいっと観察した後、くるりと身をひるがえして元来た道を引きかえそうとした。


「あっちょっと、なんで帰っちゃうんですか?」

「知らないひとだったからね」


 その声は決定的だった。


 何年たっても忘れていない。

 まるで昨日聞いたばかりのように耳に響いた。


「ニルフェン、でしょ?」


 ローブの人物がふりかえり、フードの奥からまたじいっと見つめてくる。


「覚えてませんか? 僕、サビーヌの息子です」

「サビーヌの……ええと、アッシュだったっけ?」

「そうです」


 覚えているわけないか、とアッシュは質問を間違えたことに気づいた。


 あのときはまだ肉体年齢が1歳にもなっていなかった。

 見覚えがなかったからニルフェンは立ち去ろうとしたのだろう。


「巨大化している……このあいだ見たときは赤ちゃんだったのに……」


 ローブの人物がフードを外した。

 現れたのは、繊細な金色の髪と透き通るような白い肌に深い緑色の瞳。

 あのときとまったく変わっていない美しいエルフの少女だった。


 間違いなくニルフェンだ。


「このあいだって、もう6年も前のことですよ」

「それをわたしの界隈ではこのあいだと言うんだよ。むしろキミこそよくわたしのことを覚えていたね。あんなに小っちゃかったのに」


 そこでぷっつり会話が途切れてしまった。


 ずっと会いたいと思っていた。

 けど、いざ会ってみるとなにを話していいのかわからない。


 沈黙を埋めるために口をひらけば、夢を見ているようなふわふわした気分だから場違いなことを言ってしまいそうだ。

 それでも視線を外すことができないので、無言で見つめることになった。


 ニルフェンのほうでもなにも言わずにアッシュを見つめてくる。

 神話の存在みたいに美しいエルフに見られていると思うとなんだか恥ずかしくなってくる。


 不意に脳内に声が響いた。


『マスター、心拍数と血圧が異常な数値を示しています。急な病かもしれません。今すぐ休息することを推奨します』

(これは、そういうんじゃないんだよ)

『では、どういう状況ですか?』

(ひさびさに会えてうれしいとか、そういう気持ちで昂ぶってるんだよ)

『そうですか。お邪魔しました』


 普段ティーエは用もないのに出てくることはないし、ポンコツAIみたいに人の感情を一切くみ取れないわけでもない。


 絶対ぜんぶお見通しでからかいに出てきたんだな。

 でも、おかげですこし落ちついた。


「なにを持っているの? 食べ物?」


 どうやらニルフェンはアッシュを見ていたわけではなく、アッシュが手に握りしめている植物が気になっていたようだ。


 よく見えるように手を開いてみせると、ニルフェンは足を踏みだして育筋草をしげしげと観察した。


「育筋草っていうんです。筋肉の成長にいい成分が豊富で、毎日食べてるんです。おいしくはないんですけどね、ははは……」

「ふーん」


 ニルフェンはすぐに興味を失ったようだった。

 つまらないことを言ったとアッシュは後悔した。

 知らないわけないじゃないか。

 なにを偉そうに説明して……。


 だがニルフェンが意外なことを言いはじめた。


「よくわからないけど、それは筋肉を成長させるものじゃないよ。育筋草なんて名前でもない」

「え?」

「それは魔養草。魔法使いが薬につかう植物だ」


 ニルフェンはきっぱりと言い切った。

 冗談を言っている様子はない。


(ティーエ、どういうこと?)

『ごめんなさいマスター。嘘をついていました』



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