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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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 大雨が水たまりを激しく叩き、沸騰した水面のように波立たせている。


 どれくらい経っただろうか?


 30分くらいかもしれないし、まだ数分程度かもしれない。


 雨に打たれて髪がびしょ濡れになるくらいの時間だろうとアッシュはなんとなく思ったが、この大雨では数十秒もあればそうなることに気づいた。


「アッシュ! アッシュ!」


 さっきから目に大粒の涙をうかべたディルが呼びかけてくるが、反応できなかった。


 すでに魔力を消耗していたところに、威力を抑えたとはいえそよ風の魔法を使ったことで決定的に消耗した。

 尋常じゃないほどの重たい鈍さだ。

 視界がぼやけて歪み、外界からの刺激に反応することも難しい。


 ディルに肩を揺さぶられた瞬間、右肩に激痛が走り、ようやく意識がはっきりした。


「あ……」

「よかったぁ……心配したんだぞ。おまえ死んじゃったみたいな顔してぜんぜん反応しないから」

「どえうあぃ?」

「どれくらいって言ったのか? わかんねえよ。たぶん2分とか、そんくらいだ」


 うまく喋ることもできない。

 しかし、それほど時間は経っていないらしい。


 ずしん、と音をたてて折れかけの木が倒れた。

 長身の男はその木の下でうずくまってまだ気絶しているようだ。

 いっぽうの村娘はそよ風の魔法で足払いをくらって転んだときに受け身を取りそこなったのか、地面で芋虫のようにくねくねと蠢いている。


 でもまだ2人いる。

 家にむかった男たちが。

 両親が危険だ。

 もたもたしていられない。


 アッシュは手をついて立ち上がろうとしたが、ディルの胸に倒れこんでしまう。

 意識ではすでに立っているつもりなのに、まだ地面に尻がついている。

 そのズレのせいで頭だけが先行して動いてしまったのだ。


「お、おい、だいじょうぶかよ?」


 心配そうなディルに、だいじょうぶと言おうとしてあきらめた。舌がうまく回る気がしない。

 肉体的にはほとんど疲れていない気がするのに、こんな状態では家に戻るどころか、しばらく歩くことすらできそうもない。


 はやく。

 はやく戻らないといけないのに。


(ティーエ)


 返事はない。


(ティーエ! 助けてよ!)


 やはり返事はない。

 こんなことははじめてだ。


(ティーエ、怒っているの?)


 逃げろ、という助言をアッシュがきかずに勝手な行動をしたから、ティーエは怒って無視しているのだろうか?


 この体はアッシュのものではあるが、同居しているティーエのものでもある。

 それなのに身を危険にさらされたのだから怒ったとしても無理はない。

 それは理解できる。

 でも助けが必要なこの非常事態にだんまりを決めこむなんてひどい、とアッシュは思った。


 そのとき、アッシュの体を支えているディルの手の筋肉が緊張で力むのがわかった。


「だれか、来るぜ……」


 ディルの言葉どおり、山道のほうから人の声が聞こえた。


 あの男たちが帰ってきたのか?

 この短い時間で山道を往復してきたとは考えづらいから、途中で引き返してきたのかもしれない。

 両親がすでに害されている可能性は減ったものの、こんどは自分たちが危険になった。

 こんな体たらくではとてもじゃないが応戦などできないし、そもそも立てない。


「にぇお」


 まだうまく喋れない。

 舌打ちしたくなったが、それすらままならない。


「だ、だいじょうぶだ、つぎはオレが守ってやるからな」


 ディルはきょろきょろと周囲を見まわして、地面からナイフを拾いあげた。

 それからアッシュを背中側に隠すように庇い、森の奥にじっと視線を凝らした。


(ちがう、そうじゃない、逃げてくれ!)


 やがて木々のあいだから2つの人影が現れた。


「親父ぃ……」


 ディルの体からへなへなと力が抜けていく。


 現れたのはディルの父親。

 そしてもう1人は、清楚な白い服を着たイメリア司祭だった。




 娘の居場所を聞かれたディルの父はアッシュと同じことを考えたそうだ。

 山道は行き違いになるような道ではない、と。

 それで不安になり、イメリア司祭に同行を頼んで様子を見にきたのだという。


「ひどいケガなのです。もうだいじょうぶですからね」


 優しい声をかけつつイメリア司祭はディルに【癒し】の神聖魔法をかけようとした。


「オレはいいから、アッシュを先にたすけて!」

「ディルさんは友だち思いですね。でもすぐすみますから」


 淡い光を浴びたディルの顔の傷がきれいに治ってしまった。


「すげぇ、ぜんぜん痛くない!」

「さて。つぎはアッシュくんですね」


 イメリアはアッシュの肩の脱臼もたちどころに癒してくれた。

 それだけでもすごいとアッシュは感服したのだが、本当に驚かされたのはその後だ。


「顔色がわるいですね」


 イメリアがアッシュの顔をのぞきこんでくる。


「瞳孔が散大して精神が虚ろなのです。まるで魔法を使いすぎたみたいなひどい魔酔ですね。わたくしの魔力をわけましょう」


 イメリアはアッシュの額に手を当てて祈りの言葉をつぶやく。

 すると、さらりと清涼感のあるなにかが脳内に満たされる感覚がして、あれほどひどかった鈍さが楽になり、五感が急速にクリアになる。


 この年齢で司祭に抜擢されるのは異例中の異例と話には聞いていたが、本当にただの恋愛小説オタクじゃなかったんだ、とアッシュは認識をあらためた。




 ディルの父が気絶している男を革ひもで拘束するあいだ、イメリアはのたうち回っている村娘の様子を見にいって、息を飲んだように立ち尽くした。


 動けるようになったのでアッシュもついていき、なぜイメリアがそんな反応をしたのか理解した。


 てっきり、村娘は転倒したときにどこかケガをして身動きが取れなくなったのかと思っていたが、そんな生やさしいものではなかった。


 ぐちゃぐちゃに折れ曲がった両足から骨が突き破り、夥しい量の血を流していたのだ。


「すぐに癒やしをかけないと」

「司祭さん、そいつザスルアのスパイなんだ。治してやることなんかねえよ」

「このままでは亡くなってしまいますから」

「でもオレたちを殺そうとしたんだぜ」

「お気持ちはわかりますが、フェリニアの癒しは人を選びません。命はなによりも大切なのです」

「でもさぁ!」

「アッシュくんを人殺しにするわけにはいきません」

「……」


 イメリアはそう諭してから癒やしの魔法をかけた。


 イメリアが優秀な司祭なのは身をもって体験したばかりだけど本当にこんな重傷を直せるのだろうか?

 疑いの目で見ていたアッシュはまた驚かされることになった。


 2度と足として機能しなくなりそうなほどの重傷さえも完全に治ってしまったのだ。




 村娘も拘束すると、4人は山道を急いで登った。

 もし、両親になにかあったら……と思うとアッシュは気が気でなかった。


 小柄な男たちが家にむかったのは自分のせいだ。

 胸のざわめきで吐きそうになる。

 歩いていられずに走りだした。


 しかし、走りだしてすぐに険しい顔をしたサビーヌと出くわした。

 サビーヌも山道を駆け下りてくるところだったらしい。


「ああ、よかった、私の宝物!」


 ほっとしたように表情を崩したサビーヌが膝立ちになってきつく抱きしめてくる。

 アッシュも母のぬくもりを感じながら抱き返した。


「父さんは?」

「いなかったけど、あの人ならだいじょうぶ」


 しばらくして追いついてきたイメリアもサビーヌの無事を喜んだが、その手に握られたままの木の棒に目を止めた。


 いつも稽古に使っている木の棒は途中でへし折れていて、赤い液体でべっとりと濡れていた。


「ちょっとカッとなってやりすぎちゃって……死んでなきゃいいんだけど……」


 サビーヌはいたずらを見つかった子どものように頬をぽりぽりかいた。



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