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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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18 覚醒


「まさかその幼さで魔法を使えるのか……?」


 長身の男が、警戒するように剣を握りなおした。


 魔法を使えると知った以上、もうアッシュをただの子どもとは見なさないだろう。


 だけど、どんな魔法を使えるかまで知られてはいない。

 隙をつくことができればまだチャンスはある。


 そう気を取りなおしたアッシュだが、淡い希望はその直後打ち砕かれることになる。


「動くな」


 長身の男がディルに剣を突きつけたのだ。

 しかも、念入りなことにディルを盾にするように後ろ側に移動した。


 これではディルを巻きこんでしまう。そよ風の魔法で攻撃できない。


「おとなしくしていれば2人とも傷つけはしない」


 嘘丸出しの甘言だが、アッシュは動けなくなった。


 長身の男にアッシュとディルを生かして帰すつもりがないのは明らかだ。

 とはいえ今動けばやつは即座にディルを殺すかもしれない。


「連れてこい」

「あたしが?」

「おまえ以外誰がいる。おい、わかっているな。ちゃんとこちらに連れてくるんだぞ」


 含みのある命令を受けた村娘はしぶしぶといった様子で1歩足を踏みだしたが、それ以上は進まず、男にふりかえる。


「そうだ、その子も魔法使いかもしれないよ。さっさとやっちゃいなよ」

「順番がある。いいからはやく連れてこい!」


 長身の男が苛立ったように声を荒らげた。


 それでも、どういうわけか村娘は動かない。

 引きつった顔でこちらを見るだけだ。


 怖がっているんだ、とアッシュは気づいた。

 魔法を恐れていて、なにをされるかわからないから近づきたくないのだろう。


(順番があるって言ってた……)


 あの男も村娘とおなじく魔法を恐れている。

 だから人質のディルを先に殺すわけにはいかないのだ。


 どんな魔法を使うかわからないガキをまず殺し、そのあとで無力なほうを始末する。

 それがあの男の狙いだ。


 ピンときた。

 2人を同時に制圧しなくてもいいかもしれない。


 アッシュはおもむろに歩きだした。

 近づいていくと、村娘が引きつった顔のままナイフを突き出してくる。


 しかしその動きはすでに発動したスロウドライブで既知している。

 切っ先が届くよりも早く間合いの外に悠々とでる。


 毎日のようにサビーヌの鋭い剣筋と相対しているアッシュには、素人の短いナイフを見切るのは難しいことではなかった。


 さっきのティーエの警告が頭に残っていたから、抜き身の刃物への懸念があった。

 でも、これならやれる。


 そうやって何度か攻撃を事前に回避してみせると、村娘の顔にはっきりと恐怖の色が浮かび、どんどん攻撃が雑な大ぶりになってきた。

 これではスロウドライブを使う必要すらなさそうだ。


 そのうちにこちらがまったく反撃していないのに、村娘の息はどんどん荒くなってとうとう悲鳴のような声までまじりはじめた。


「ちぃっ!」


 もたもたする娘に焦れたのか、長身の男が舌打ちしてこちらに足を踏みだした。

 もう1歩踏みだせば、2人の悪党が一直線に並ぶ。

 それをアッシュは待っていたのだ。


 だが、そのとき予想もしないことが起こった。


 ディルが長身の男の足にしがみついたのだ。


「逃げろアッシュ! オレにかまうな!」


 信じられない勇敢さに、そして友人を思う無私の行動に、アッシュの胸が震えた。


 しかし、その勇敢な行動がディルの運命を決定してしまった。

 最悪の方向に。

 すでに苛立って平常心を失いかけていた長身の男をさらに刺激してしまったのだ。


「邪魔だ!」


 振り上げられた剣には、はっきりと殺意が滲んでいる。

 脅しではない。

 振り下ろすつもりだ。


(スロウドライブ!)


 とっさに世界を遅くして、アッシュは理解した。

 この状況がどれほど危険で困難なのか、ということを。


 そよ風の魔法は使えない。

 位置的にディルを巻きこんでしまう。


 石を拾って投げるか?

 ダメだ。


 すぐそばに手頃な大きさの石がないし、だいたい当てる自信がまったくない。

 野球のボールを投げたことすらないのだ。


 村娘からナイフを奪って投げる?

 同じだ。

 投擲の経験などない。


 大声をだして注意を引きつける?

 他人を挑発したことなどないから効果的な言葉の選択も適切な声色もわからない。

 無視されたらそれで終わりだ。


 手を探しても、できることよりもできないことが次から次にわかってくるだけだ。

 もどかしくて嫌になる。


 だからといってこのまま黙って見ていられるわけがない。


(できることを、やるしかない!)


 追いつめられた脳裏に浮かんだのは、きついインターバル走のときに必ずイメージした、緑の芝生を切り裂くように疾駆していく逞しい肉体。


 走る。


 それがアッシュのだしたあまりにも愚直な結論だった。


 すべての力を下半身にこめる。

 速く。

 今までよりもっと速く。


 間に合え、間に合え、間に合え。


 アッシュは全身の力をすべて使い切るつもりで地面を蹴った。


 その頭には不安は一切なく、それどころかもう思考すらしていない。

 何度となく繰り返して体に染みついた、走る、という動作を自動的に行っているだけだ。


 ドン!

 と強い衝撃を感じた。




 気づくと視界が茶色だった。

 それが、男の服だと気づくのにしばらくかかった。

 あわてて顔をあげると、口を半開きにしている顔があった。


 驚きつつもすぐに後ろに飛びのいて距離をとる。

 ズキッと鋭い痛みが右肩にはしった。

 肩の骨かなにかが折れているのかもしれない。


 剣をふりかざしていた長身の男が折れかかった木の幹に寄りかかるように立っていた。

 両腕をだらんと力なく下にたらし、そして、白目をむいて涎を垂らしている。


「アッシュ!」


 声が遠い。

 振り向くと、ディルと村娘がずいぶん遠くにいた。


 ディルは無事だ。

 ほっとした。

 どうやら間に合ったらしい。


 なぜ2人が移動しているのか不思議だったが、よく見れば2人はさっきと同じ位置にいる。


(移動したのは僕たちなのか?)


 たしかに、走って止めようとはした。


 長身の男とはかなり距離があったのに、気づいたら接触していた。

 その後、男もアッシュも10メートル近く移動していた。

 男は気絶していて、その後ろの木はいまにもへし折れそうになっている。


(なんだ? なにが起こったんだ?)


 悠長に考えこんでいる暇はなかった。


「あきゃああああああああああ!」


 奇声をあげた村娘がナイフを振りかざし、ディルのほうへ走りはじめたのだ。


(させるか!)


 まだ動く左手を伸ばしてそよ風の魔法を放とうとしたとき、目眩のような感覚がした。

 立ちくらみに似ているが、これは違う。

 魔力を過度に消耗したときに起こるあの鈍さだ。


 左手が、思考からだいぶ遅れてようやく上がってきた。

 やはり体と思考がズレまくっている。


 おかしい。

 これまでに感じたことのないほどのひどい鈍さだ。

 そもそも魔法なんて使っていないのに。


 これ以上魔力を消費すればまったく動けなくなるかもしれない。

 そうなれば、さっき家にむかった2人が戻ってきた時になす術もなくやられてしまう。


 だが。

 そんなことは今やらない理由にはならない。

 絶対にディルを助ける。


 アッシュはそよ風の魔法を放った。

 その瞬間、どろりと重く粘っこいものが濁流のごとく頭のなかに入りこんできた。



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