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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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16 忍びよる不穏な影


 その日は朝から小雨がふっていた。


 数日前から秋口をむかえていたため、ディルは家を出たときに半袖からのびる腕に肌寒さを感じた。


 村道を村はずれまで歩き、山道に入る。

 この数か月で何度となく通ったアッシュの家への道だ。


 今朝修理が終わったアドルの革ブーツを届けるように、と父のグリーズからおつかいを頼まれた。

 どのみちアッシュに会いにいくつもりだったからついでなので引き受けた。


 山道を登りはじめてしばらくすると、人の声が聞こえた。


 借りに出たアッシュとアドルかな、と声のするほうへ足早に行ったが、そこにいたのは友人親子ではなかった。


 大人の男が2人と若い女が1人。

 木立ちのあいだに隠れてなにかを話していた。


 女は、話したことはないけどよく会う村人だ。

 男たちもときどき村にくる旅商人だ。


 ディルは一瞬、声をかけようと思った。

 だが大人たちの雰囲気に不穏なものを感じて、本能的に木の陰に身を隠した。


「――それで、やつはいつまでいないんだ?」

「そんなことわかるわけないでしょ。でも長旅の支度をして出ていったから、きっと遠出よ」

「きっと? それじゃ役に立たん。情報の確度が低すぎるぞ。いざ攻めこんでやつが出てきたら部隊がまた皆殺しにされるぞ」


 攻めこむ、皆殺し。

 普段は耳にすることのない物騒な言葉に、ディルの身が緊張で固くなる。


「しょうがないでしょ。あたしは黒騎士に目をつけられてるんだから」

「なんでそんなヘマをやったんだか」

「何度も説明したでしょ。城の兵士を酔わせて警備の交代時間を聞き出そうとしたら邪魔されたんだって」

「おまえの恋人に、か?」


 男の声がからかうような調子になった。


 こいつらザスルア人だ。

 ディルは直感的にそう思った。


 最近はほとんど攻めてこないが、昔は国境を越えたザスルアの部隊が村を襲って略奪していくことがあったらしい。

 それがぱったりなくなったのは黒騎士が城に赴任してからだと、よく村の大人たちが話している。


 本当かどうか噂の域をでないけど、黒騎士は着任して最初の戦闘でザスルアの部隊を卑劣な罠にかけて、ほとんど戦わずして勝ったという。


 しかも武器を捨てて降伏した兵士まで嬲り殺しにしたらしい。


 今の話を聞いたかぎりでは、あの噂は事実だったようだ。

 どうやら不在らしい黒騎士が帰ってくる前にまた村を襲うつもりなのだ。

 もしかしたら復讐かもしれない。


(みんながひどい目にあう。親父に知らせなきゃ)


 ディルはその場をはなれるためにそうっと後ろに下がろうとした。


 ところが、背中になにか柔らかいものがあたった。

 そして、大きな手で肩をつかまれるのを感じた。




 アッシュは村に下りた。


 いつもならまっさきに飛びついてくるはずのディルがいない。

 その辺にいた顔見知りの子どもに聞いても「見かけていない」というので、店に行ってみた。


「今朝おまえさんとこにおつかいに行かせたよ。会わなかったのか?」


 ディルの父グリーズがそう教えてくれた。


「いえ」

「そうか、行き違いになったのかもな」

「はあ」


 行き違いになることなんてあるのだろうか?

 アッシュは首をひねった。

 あの山道は家まで唯一の道なので行き違いになるとは思えない。


 胸がざわめく。

 来た道を戻り、山道に入った。


 地面に注意していると、登りはじめてすぐにディルの足跡が道からそれていくのがわかった。

 土の濡れ具合から判断するとまだ足跡は新しい。


 アドルに獣の痕跡を追跡する術を教わっていてよかったと思いながらも、いよいよなにか異常なことが起こっている気がした。




 足跡を追いかけていくと、かすかに人の声が聞こえた。


 この山には山菜をとりにくる村人もいるから必ずしも不審者というわけではないだろうが、用心のため身を低くして木々のあいだに隠れながら声のほうに進む。


 男性が3人と女性が1人、ひそひそと声を潜めて密談していた。


 男性たちは知らない大人だったが、女性には見覚えがある。

 何度か見かけたことがある村人だ。


 4人に取り囲まれるようにしてディルが地面に座っていた。

 アッシュは、かっと頭に火がついたような気がした。


 ディルの顔には殴られたような跡がいくつもあり、そこから血が流れていたのだ。


「ったく強情なガキだな。吐けば逃がしてやるって言われただろ」


 めんどくさそうに言った小柄な男がディルの肩を押さえつけて、無造作に顔面を殴りつけた。


 ディルは小さく喉を鳴らしたが、悲鳴はあげなかった。

 勇敢だが、じっと地面を見ている目からは涙があふれている。


 女がディルの荷袋をひっくり返し、地面に散らばった物を見て「あぁ」と声をもらした。


「もう殴んなくていいよ。わかった。この子の親はグリーズって革職人だ。このブーツを届けにいく途中だったのよ。たしかこの山の奥になんとかって猟師の一家が住んでるから」


 その声でようやくアッシュは思いだした。

 あれは、祝祭日にスパイ疑惑をかけられて黒騎士に殴られた村娘だ。


 それまで話をせずに考えるようなそぶりをしていた長身の男が口を開いた。


「何人家族だ?」

「さあ? 村人じゃないからわからないわ。たしか子どもがいたはずだけど」

「最低3人か」

「この子はまだ知らせてないと思うけどね。お届け物がここにあるんだし」

「万が一ということもある。手間になるが、始末しておこう」


 ディルがキッと顔をあげた。


「オレはまだ誰にも知らせてねーって!」

「おいガキ、勝手に声出すなって言われてただろ」


 さっきの小柄な男がまたディルを殴打した。


「この子どもの親は革職人だったな?」

「そうだよ」

「村長でも金持ちでもないんだな?」

「そう」

「なら、いなくなっても誰も気にせんな。残念だったな、ぼうず」


 長身の男が世間話でもするような調子で、すらりと腰から剣を抜いた。


 そのときになって初めてアッシュは気がついた。


 男3人はみんな腰に剣の鞘をつけている。

 もう見ていてもしょうがない、とアッシュは隠れていた木陰から飛びだそうとした。


 その瞬間、雨粒が空中に張りつく。

 世界が止まっていた。


 しかし、スロウドライブを使ったのはアッシュではない。

 完全に頭に血がのぼっていてそんなことすら思いつかなかった。


『マスター、その行動は推奨しません』


 時を遅くしたのはティーエだった。


(なにを言ってるの? 僕はディルを助けようとしてるんだよ!)

『ですから、その行動を推奨しません』


 アッシュは耳を疑った。


 脳内で会話しているのだからそんなことが起こるわけがないのだが、聞き間違いではないかと思った。

 そうでなければ自分が意味を間違えて解釈しているのか、どちらかに決まっている、と。


 だが、どちらでもなかった。


『今すぐこの場をはなれることを推奨します』


 信じられないことに、ティーエはディルを見捨てろと言っているのだ。



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