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時をあやつる魔法族に転生した。未来のAIに導かれ最強の魔法王になる  作者: 飛来甲殻類


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10 イメリア司祭


 祭りの日にあれほど両親が警戒していたのだから、きっとイメリア司祭と会う機会は当分ないだろう。


 あるいは、2度と。

 アッシュはそう思っていた。


 ところが再会は意外にも早かった。

 数日後、イメリアが家を訪ねてきたのである。



 朝、ドアがノックされたときアッシュは育筋草の塩漬けをポリポリつまんでいた。


 育筋草を生で食べるのは遠慮したいが5歳児に火を使わせる母ではないので、サビーヌに頼んでツボを1つ借りて塩漬けにしておくことにしたのだ。


 いわゆる漬物である。

 漬け方はティーエにご教授してもらった。


 我が子がなぜ得体の知れぬまずい野草を食べたがるのかサビーヌは首を傾げたが、植物図鑑で調べたりアドルに確認したりしたところ危険はなく栄養も豊富ということで許可してくれた。


 サビーヌは来客の応対のために覗き窓から外をうかがい、戸口に立っていたのがイメリアと知って困惑の様子をみせる。


「なんのご用かしら……?」


 訝しがったもののまさか司祭様を追い返すわけにもいかずドアを開けた。


 のらりくらりと頭を左右にふりながら盛り上がらない程度に話を合わせていたが、イメリアが懐からある書物を取りだすと急に顔色をかえた。


「それはまさかっ?」

「はいっ。【花咲く騎士道物語】の最新作なのです。以前お会いした時にオズバルディ先生がお好きだとおっしゃっていたのでお持ちしました」

「第9巻? もうそんなに進んでるの? 私4巻までしか読んでないの。すっかり置いてかれたな~」


 オズバルディ先生とは娯楽小説の人気作家らしい。


 イケメンの貴公子が女性たちと繰り広げるめくるめく恋愛描写に定評があり、とくに女性人気が高いらしい。


 アッシュも母が何度か先生の名を口にして懐かしがっているのを聞いたことがある。

 なぜか先生ご本人までイケメン扱いなのが引っかかったが。


「手に入れたばかりの新刊をぜひ、と思ったのですけど、途中を飛ばして読むわけにはいきませんものね。ごめんなさいなのです……」

「司祭様のところには前の巻もあるんですか?」

「もちろん! 先生の作品はすべて揃えております。わたくし大ファンなので!」


 それを聞いたサビーヌは目を固く閉じて、戦争の趨勢を左右する重大な決断を迫られた稀代の名将かのごとく天を仰いだ。

 やがて。


「……今から、お邪魔しても?」


 迷っていたのは3秒足らずだった。




 そんなわけで数日ぶり2度目のロマノ村訪問である。


「もうここには来ないほうがいいわね」


 なんてと深刻そうな顔でいっていたのはなんだったのだろうか、とアッシュはやや呆れた。

 サビーヌとアッシュはイメリアに連れられてフェリニア神殿を訪れた。


 地母神フェリニアの神殿、といっても辺境の田舎村の出張所にすぎない。

 すこし大きな民家といったつくりだ。

 この村の家屋はほとんどが平屋なので、2階建てなだけ豪華といえなくもない。


 働いているのも助祭が1人と下働きが2人だけで、しかも下働きは善意の協力を申し出た村人である。

 1階の広間を神殿としての宗教儀式に用いて、司祭たちは2階で寝起きしているそうだ。


「狭いところですが、ゆっくりしてください」


 広間では奥の小さめの祭壇にやはり小さめの女神像が据え置かれ、壁際に本棚が並んでいる。


 数脚の椅子が部屋の隅に片づけてあるが、儀式のときや、村の子どもたちに文字を教えるときには並べて使うのだろう。


「だめっ! コレクションえぐい!」


 イメリアの個人的なスペースだという本棚を見るやいなやサビーヌが悲鳴のような喜びの声をあげた。

 それを発端にしてさっそく2人はオズバルディ先生の話で盛り上がりはじめる。


 イメリアがわざわざ山奥の猟師小屋を訪ねてきた目的はこれだ。


 おそらく村には文字を読める者が少なく、オズバルディ先生のファンが他にいないから、サビーヌと語り合いたかったのだろう。


 断りを入れてからアッシュも本棚を物色する。


 ほぼ引っ張ってこられたようなかたちとはいえ、知識を仕入れる絶好の機会だ。


 宗教関係の本が多いが、さすが教団始まって以来と評される才女だけのことはあってさまざまなジャンルの本がある。


 アッシュは【フラゴニア王国史】という本に目をつけた。フラゴニア王国とは今いるこの国のことだ。


『いいセンスです。わたしもそれに目をつけていました』


 単純にこの国の歴史に興味があったのだが、じっくり読ませてはもらえなかった。


 植物辞典のときと同じく高速で1ページずつめくる係に任命されてしまったので、自分が読んでいる暇はなかったのだ。


『必要に応じて要約した内容をお伝えしますから、マスターが自分で読むよりはるかに時間の節約になりますよ』

(それだと読書する楽しみがぜんぜんないんだけど……)

『楽しみ。それは読書に必要ですか? 知識を得るための行為ではないのですか?』

(新しいことを知るのは楽しいからね)

『なるほど。覚えておきます。この本の記憶が終わったらつぎはそこにある法律関連の本に取りかかってください。それから魔法関連の本もチェックしたいのですが、ここにはあまりないですね。信仰に抵触するのでしょうか?』


 矢継ぎ早に指示をだしてくるティーエ。

 覚えてはおくけどじっくり読ませるつもりはない、と。


 アッシュはため息をついて読書を楽しむことをあきらめた。


(そういえば科学系の本はいいの? いちばん文明に関係あるんじゃないの?)

『もちろん読みたいですが、やはり目ぼしいものはないようです』

(やはり? なんでやはりなの?)

『宗教と科学は仲がよくありませんから』


 納得した。




 王国史の本のあと法律の本の記憶作業をしていると、外が騒がしくなった。

 子どもの声だ。

 1人や2人ではなく何人もいる。

 大声で罵り合っているようだが、ときおり笑い声も聞こえる。

 ケンカではなさそうだ。


 気になってページをめくる手が何度も止まってしまう。


『マスター。そんなに気になるなら見にいってはいかがです?』


 なんだかティーエのため息が聞こえてきそうだったけど、お言葉に甘えることにした。


 神殿を出て声の発生源に歩いていく。

 いくつか通りを曲がると、芝生のはえた空き地があった。


 そこに10人ほどの子どもたちがいた。

 男の子のほうが多いけど女の子もいて、年格好はだいたいアッシュと似たようなものだ。


 子どもたちは、丸いボールを蹴っていた。



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