手回し発電立国
しかし、武山総理が考えたのは兵役としての徴兵制度ではなく、地球温暖化問題に対する徴兵制度だった。情報の出所が自衛隊だったことも影響したのだろうか地球温暖化に戦いを挑むということからのネーミングだったらしい。
法制化するにあたって武山総理大臣はテレビやインターネットを使って国民に説明した。
「今、地球は明日をも知れない状況にあります。我々の大切な地球は、異常気象や多種な生物の絶滅、温暖化等、人類の生存の根幹に関わるアラームを発し続けてくれました。しかし、私たちは、そのアラームに気づかず、地球温暖化ガスを垂れ流し続けました。今こそ立ち上がる時です。日本国民全員が地球温暖化に戦いを挑む戦士としてご協力をお願いしたい。ついては、15歳以上の国民は週1回2時間以上、最寄の人力発電所に行って発電を行っていただきたい。これにより、日本から地球温暖化ガスが発生する火力発電所を全て撤去したいと考えています」
この『エコ徴兵制度』の法令化により、各地域の町内会レベルで小型人力発電所が建設され、15歳以上の国民は全員週1回以上エコ戦士として交代で発電機を回すこととなった。
そして、人力発電が軌道に乗り始めた頃、宣言どおり火力発電所は次々に解体され、その跡地には、安藤工業が新たに開発した発電所が建設されていった。これは、安藤工業が手回し発電の第二ステージと提唱する方式のもので、人の代わりに家畜の労力を発電に使うというものだった。これまで火力発電所としてコンクリートと鉄で作られた広大な施設が、土と緑の広々とした牧場に変わり、発電設備は必要最小限のサイズのものが設置された。発電機は、牛や馬など家畜が交代で24間フル稼働でまわし、従来の火力発電並みの電力を発生させることに成功した。太陽と水と草が原料の電気が生産され始めたのである。究極のエコエネルギー国家手回し発電立国『日本』の誕生であった。
朝食をとりながら山崎は妻に向かって言った。
「俺、なんか最近痩せてない?」
「そうね、エコ徴兵制度始まってから少し痩せたかもね」
人力発電には電力を作り出す以外にも、思いがけない効用があった。国民の健康増進である。エコ徴兵制度は、結果的に全国民に週一回以上強制的運動をさせる制度でもあった。それにより、国民の医療費(特に高齢者)が大幅に削減されたうえ、平均寿命も伸びた。
山崎も例外ではなく、メタボが心配だった腹回りがなんとなくすっきりとしている。
「よし、今日もがんばってくるか」
山崎はそう言うと、日本の電力の大元であるご飯を納豆とともに掻きこみ、ワカメの味噌汁で朝食を締めくくり、若干張りが無くなったお腹をポンと軽くたたいて立ち上がった。
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