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エアロバイク

 安藤工業の社長は、うつろな目をしてこう言ったものだった。

「流行っていうのは、こわいもんだねぇ。あんなにちやほやされたのに、あっという間に話題にもでない。エレベーターより速いなあ」

 社長も今回の件では、踊りすぎたと反省しているようだった。 ボートの件から数ヶ月後、会社の帰り支度をしていると山崎の携帯が鳴った。大門先輩からだった。

「山崎か。この間はどうもな~!エルゴメーターも調子よくちゃんと動いているし、インターハイにも行けたしすごく助かったよ」

「そりゃ良かったですよ。でもインターハイは残念でしたね」

 大門のボート部は、30年ぶりにインターハイに出場したものの予選で敗退、入賞に届かなかったらしい。

「いやいや、あれだけできれば大したもんだよ。ところで、うちの学校がある金星市で市民体育館をリニューアルするって話、知っているか」

 最近、新聞かなにかでチラッと見た記憶はあるが、気にも止めていなかった。

「市の関係者から聞いたんだが、あの市民体育館には、結構大きなトレーニングルームがあってな。トレーニング器機がわんさかあるんだよ。で、今回その機器もみんな古くなっているんでまとめて更改するらしいんだな。そこでお前の顔を思い出したわけよ。発電と組み合わせができるトレーニング機器があれば、例のエルゴマシーンのようにお前の会社も潤うんじゃないかと思ったんだけどさぁ」

 なるほど、エルゴマシーンの時は、どちらかというとマイナーなスポーツだったためあんまり商売に結びつかなかったが、一般的なトレーニングマシンだったら需要が多いはずだ。

「もし、よければ市の担当者を紹介してやるよ。実はその担当者って金星高校ボート部OBなんだよ。だからこの話、意外とうまくいくかもしれないぞ」

数日後、市の担当者にアポを取り、山崎と営業の担当者の二人で市役所に出向いた。

 佐藤と名乗った市の担当者は、元ボート部らしく黒々と日焼けしていてニッと笑うと白い歯が印象的な青年だった。

「大門先生のご友人の方ですよね。先生からお話は伺ってます。しかしあの自己発電型エルゴメーター、僕も漕がしてもらいましたけど、いいですよね~。実は僕、今でも地域のボートクラブの一員でして、国体なんかにも出場してるんですよ」

 ボート競技というのは、意外と人を虜にするらしい。大門に言わせれば、筋トレメインの過酷なスポーツで、陽には焼けるし足は太くなるしでとても大変なんだけど、水面を走る爽快感やブラッシュアップされたわが身の筋肉美は一種独特な魅力なんだそうだ。

 商談の方は、大門が言ったように意外とスムーズに話が進んだ。

 今回は、自己発電型ローイングエルゴマシンは一台のみ、それ以外にエアロバイク(自転車型トレーニングマシン)に発電機を組み込んだ新たな製品を開発することになった。

 エアロバイクは、かなりの種類が市場に出回っていて、単純にこぐだけタイプのものから、大型ディスプレイを装備していて、テレビが写ったり、コンピュータ制御で負荷が自動的に変わるものまであり、値段もピンきりだったため、どのタイプを参考にするかで若干もめたが、経費や納期等の関係から、とりあえず一番単純なタイプで開発することとなった。

 開発段階で、紆余曲折があったものの、無事納期まで製品化が完了し、結果的に自己発電型エアロバイク20台と蓄電システムを納品することができた。

 このトレーニングルームを利用する人の層は、曜日と時間帯で大きく分かれていて、平日の日中帯は、高齢者や家庭の主婦が多く、夕方夜間や週末は比較的若い人が多い。当初、発電量は、若い人が多い夕方夜間週末が多いと思われていたが、実際始まってみると不思議なもので、高齢者や主婦が集中している平日の日中帯が多かった。ジジババオバサンパワー恐るべきというところか。また、自己発電型エアロバイクは、発電に重点を置いた単純型のため、となりに設置されているコンピュータ制御された従来のエアロバイクと比べると、利用者が少ないのではないかという懸念があったが、市民の環境に関する意識が高いせいか、圧倒的に自己発電型エアロバイクの利用率が高かった。すぐ目の前に発電量のディスプレイを配置し、今どのくらい自分が発電したかを即座に確かめられるようにしたのが功を奏したのかもしれない。

 それに加え、トレーニングルームの壁面に現在の蓄電システムの総蓄電量とそれを金に換算したらいくらになるかという表示板を設置するとともに、利用者が使用し終わった時点で自分の発電量と貢献金額が印刷できるように改造をしたところ、エアロバイクの後ろに待ちの行列ができるまでになった。

 その話を聞いた市の担当者 佐藤は、さらに一計を案じた。発電した貢献金額見合いで次回以降のトレーニングルーム利用料金を値引きするという、お役所では難しいポイント制度を導入したのだ。このポイント制度は大当たりし、利用したい人の列はトレーニングルームからはみだし市民体育館の外にまでできるようになってしまった。

 当然、マスコミが放っては置かない。地元新聞や地元テレビが取り上げた後、全国紙やテレビのキー局も食いつき、一大ブームとなった。


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