自己発電型ローイングエルゴメーター
早速、山崎は設計図を社内の技術部門に持ち込み、検討するように依頼した。実際に話が動き出せば、山崎は経理担当者なので直接担当することは無く、新たに営業担当者と技術担当者が張り付いて進めることになる。それでも、最初の取っ掛かりが山崎だったことからその後の状況を教えてもらっていた。
設計図の実物化については、意外とあっさりOKが出たらしい。基本的に最初の段階では既存のエルゴメーターを改造して性能を検証することになったようで、設計図もかなり完璧に出来ていたことから、1ヶ月後にはプロトタイプとして大門の学校に持ち込まれた。
大門やボート部の部員達の反応は上々だった。使用上特に問題もないどころか、利用者から見える位置に電力計を取り付けたので、トレーニングをする際のモチベーション向上にも一役買っているらしい。確かに、黙々と筋トレを行うより、少しでも環境問題に役立っているんだと思えば気合の入り方も違うかもしれない。
検証の結果、発電した電気を溜めておく蓄電システムもあったほうがより便利だということになり、こちらの方は、我社の得意分野であることから、すでに製品化されている風力発電用のバッテリーシステムとコントローラを流用することにし、半年後には改造型ではないエルゴメーター5台と蓄電システムを納品することができた。
経費的にも、参考になる既存の製品が明確だったことから、ほぼ予定通りで収まったらしい。
特筆すべきは、その発電能力だった。人力による発電なので、動かす人の能力に100%依存するわけだが、ボート競技に青春をかける若い力の発電能力はすさまじく、当初納品した蓄電システムではすぐにオーバーフローしてしまうことが判明し、急遽バッテリーの容量を追加するほどだった。
ボート部員が発電する電気量は、部員達が使用する体育館の照明や音響等の、約半分近くをまかなうことができた。しかも、この新エルゴメーターのおかげなのか、万年最下位争いだったチームがなんと地区大会優勝、30年ぶりにインターハイ出場を成し得たのだった。
学校側は、ここぞとばかり地元の新聞社やテレビ局などに、このたびの快挙は選手達の努力と、環境に配慮した独自トレーニングマシンの効果と報道発表を行ったところ、世間の地球環境問題に対する意識の変化の追い風に乗って各マスコミはこぞって取り上げ、学校の株を大きく押し上げた。
勿論、開発元である山崎の会社、安藤工業の社長もこの好機を逃さず、学校と申し合わせ、報道機関が学校に取材に来るときは必ず呼んでもらい、校長と社長が一緒にインタビューを受けたりして一躍地元の有名人に祭り上げられた。
山崎は、社長が出ているテレビニュースを見ながら、これで、新エルゴメーターに注文が殺到し、会社の工場もフルラインを新エルゴメーターに移行し生産するといううれしい悲鳴を上げることになってくれるといいなぁと心を弾ませていたが、いかんせん、ボート部という競技人口が少ないスポーツが対象であったため、他校から数件の注文は来たものの悲鳴を上げるまではならなかった。
一ヶ月もすると、マスコミの熱もすっかり冷め、もともとマイナーな感がいなめないボート競技のことは人々の脳裏からすっかり消えてしまい、残ったものといえば社員が持っている名刺の裏に書かれた主な製品欄に「自己発電型ローイングエルゴメーター」と追加されたぐらいだった。




