海を渡った江戸風鈴
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
私こと菊池須磨子が通う台南市立福松国民中学には、王珠竜ちゃんという親日家の同級生がいるんだ。
その子には五歳上のお姉さんがいるんだけど、この人も日本の大学に留学する程に親日家なんだよね。
だから大学の休みを利用して帰省する度に、日本土産を買ってきてくれるんだって。
「見て、須磨子ちゃんも林杏さんも!お姉ちゃんったら今回は江戸風鈴を買ってきてくれたの!ゼミ友と帝都に行ったんだって。」
教室で私達を見かけるや、今回も得意気にスマホを見せてきたんだもの。
確かに液晶に表示されたガラス製の風鈴は綺麗だから、自慢したくなるのは道理だけど。
「江戸風鈴って確か…縁がギザギザだから音に特徴があるんだよね。」
即座に反応したのは、音楽や美術の得意な曹林杏さんだった。
「詳しいなあ、林杏さんったら…私は風鈴なんて日本の漫画でしか見た事ないよ。」
私って一応、日系ハーフなんだけどなぁ…
そんな私達二人の反応に、珠竜ちゃんはすっかり気を良くしたんだ。
「それならきっと喜んで貰えそうだね…見て、これはお姉ちゃんからの二人へのお土産だよ!」
何と画像で見せてくれたのと全く同じ江戸風鈴を、私と林杏さんにもお裾分けしてくれたんだ。
こうして我が家にやってきた江戸風鈴は、早速お母さんの目に留まる事になったの。
「江戸風鈴みたいな日本式のガラス風鈴を見ると、学生時代を思い出すわね…お父さんとデートで訪れたお祭りでは、風鈴が沢山吊るされていて風流だったわ。」
若い頃に神戸の大学に留学していたお母さんは、お父さんとは学内で知り合ったらしい。
丹波市の高源寺で開催された風鈴祭りにも、その時に行ったみたい。
きっとこの風鈴の音色が、お母さんの青春を呼び覚ましたんだろうね。
そして真新しい風鈴は、他の家族にも注目されたんだ。
「ああ、須磨子。部屋で飾るのも良いかも知れんが、風鈴は窓辺に飾ってあげなさい。」
「そうだね、お祖父ちゃん。東の窓には『陽』の気が入るもんね。」
てっきり私は、風水的な理由なのだと思っていた。
だけど祖父の思惑は、別の所にあったんだ。
「それもそうだが、やっぱり風鈴は音を愛でなくてはな。」
確かに折角の音色を楽しまなきゃ、風鈴も形無しだね。
そうして窓辺に吊るした風鈴は、台南市を吹く温かい風を浴びて涼し気な音を立ててくれたんだ。
日本の東京から中華民国の台南市へ。
長い旅を辿った江戸風鈴の音色には、どこか郷愁に訴えかける響きが感じられたよ…




