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虹の影

作者: 幸京
掲載日:2026/05/01

「次の駅は終点、鴨川駅」

車内のアナウンスで目が覚める。

今日も何とか最終電車に間に合うと、ほっとしたのかそのままウトウトして寝てしまった。

まぁ、自宅への最寄り駅は終着駅だから寝てても安心だし、何より私には自慢の夫がいる。

ほらやっぱり、駅から自宅までは徒歩で15分ほどだけど、今日も駅まで夫が車で迎えに来てくれている。

夫も仕事が忙しく疲れているのに、21時を越える日は夜道が心配だからと言って迎えにきてくれる。

友達や職場の同僚にそんな話をすると、「いいなー」「優しい」と言われ、僻みなのか「浮気しているからじゃない?」「優し過ぎるのは何か怪しい」と言われることもある。まぁ、そんな時は夫の職場と役職を言うと大概黙り込む。夫は一流企業で役職に就いているから、多少の浮気も収入を考えれば許せるのが女だろう。

帰宅すると夫がつくっていてくれた料理を温めて食べる。学生時代に一人暮らしを機に始めたらしい料理は凄く美味しい。そう私達は大学時代に知り合った、のだ、いや、そうらしい・・・。あぁ、またこれだ、何故だろう、夫との出逢いや想い出を振り返る度に妙な違和感が出てくる。それは私が経験せずに頭に入ってきたような、小説を読んだような映画を観たような、現実ではない感覚。

『ねぇ、あなたは一体誰なの?』

ふと、そんな言葉が出そうになると、決まって夫の優しい笑顔と言葉がくるのだ。

まぁ、いいか。仕事を続けさせてくれ、体の求めも無理強いしない、優しい夫。

幸せすぎる私の勘違いだろう。


家業を継ぐことになり、父に言われた通り昔から勤めている従業員の信頼を得ようとして今日も現場に行ったが、足を引っ張り邪魔者扱いされ、落ち込みながら帰宅する。

「お帰り、お兄ちゃん。何、落ち込んでいるの?どんまい、どんまい、大丈夫だよ。お兄ちゃんが頑張っているのは本当に皆が分かっているから」

可愛い妹が笑顔で迎えてくれた。5歳違いで近所でも可愛いと評判の妹。子供の頃から多くの人から言い寄られるだけではなく、芸能事務所からも何度もスカウトされた。だけど妹は興味を示さず、大学卒業後は家業の経理を担当している。僕はお礼を言ってシャワーを浴びるためそのまま浴室に行く。その時に感じた違和感、すぐに脱いだ服をそのままにスマホでSNSを開く。早く早く早く急げ急げ急げ、僕は早く急ぐ。この違和感を感じている間に、誰かに気づいて助けてもらうために。幼いころから稀に感じていた微かな違和感。それを誰かに言っても怪訝な顔をされ、同じ被害者であるはずの親に言っても笑われ怒られあきられたこと。早くしないと。妹と偽り、いつの間にか僕達の家族に入り込んだ異物。足音が聞こえる。まずいまずいまずい、いつもそうだ。自分でどうにかしようとすると異物が見透かしたように現れる。そうなれば僕は、いつも、その力に。SNSへ投稿するその瞬間ー、

「ごめん、お兄ちゃん、そういえばシャワーの調子がちょっと悪いみたい。明日には業者が来て修理してくれるって」

妹が脱衣所のドアの向こう側で言う。

僕は投稿途中のSNS見ながら、何だこれ?と思う。

妹がどうとか、異物とか、助けてとか。訳の分からないことが書いてある。疲れているのかな?

明日も誰よりも早く現場に行かなければいけないから、早く休まないと。

僕はシャワーの件は分かったと妹に答える。


まさか、死に際に気づくとはな。

50年連れ添った女房がわけの分からんもんだったとは、一体何の罰なんだよ。

どう考えても気づかないほうが良かったよ。

なぁ、何で気づかせたんだよ。その妙な力があれば、気づかれないことだって可能だったんじゃないのか?もう俺が何を言っても、意識朦朧だとか、認知症だとか、もう長くはないとかで終わらされるだけだろう。あー、くそ、何であんな得体の知れないもんと何十年もいた、いや、いたことにされたんだよ。あれもこれも本当にあったことじゃない。・・・でも何だろうな、あいつと過ごした全てが嘘だという証拠はないんだよな。子供も3人生まれてさ、学のない俺とは違い3人共、大学まで出やがった。きっとあいつに似たんだ、そうそうあいつは良い大学出だったよな、俺の記憶では、な、アハハハ。今日はあいつが子供や孫たちと見舞いに来るんだったな。いっそ皆の前でぶちまけてやろうか、こいつは人間じゃない、人の記憶を操るわけの分からんもんだってな。はぁー、まぁ、こんな事は考えるだけで、そんなことをやるわけがない。幸せだったから、あいつとの日々は、その想い出は幸せだったから。感謝しているよ、俺なんかと一緒にいてくれてよ。お、皆して来やがったな、でもありがとう何て思っていても言ってやんねーよ、アハハハ。頑固ジジイの文字通り最後の意地よ。


「先生、そんな生物が本当にいるんですか?」

「ああ」

「信じられません。人の記憶を操るなんて」

「まったくだ」

「そんなこと発表しても誰も信じませんよ」

「だろうね」

「だったら・・・」

「誰にでもすぐに出来る解除方法と、予防の仕方を発表するだけだ」

「え?」

「解除すればすぐにそいつらは偽りの記憶と共に消滅、そして二度と罹らない。予防も簡単だ」

「本当ですか?」

「現に私の記憶は操れないだろ?」

「・・・私達はただ共存を望んでいるだけです」

「黙れ、消えろ」


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