エピローグ
夏休みが終わり、紫は学校に登校し始めた。
あの日から、湧き水は枯れてしまい、町からジュンちゃんの姿は消えた。
マスコミも野次馬も波が引くように一斉にいなくなり、あっという間に筒井市に日常が戻ってきた。
繭子は関連グッズの在庫を抱えることにはなったが、グッズ代の業者さんたちへの支払いは、祖母のアサさんが肩代わりしてくれたそうだ。
「商売には失敗は付き物。一度の失敗でへこたれたらアカン。この失敗から学べばええからな」
というのが彼女の言葉だったそう。繭子はそのお金を、エアコン設置のための寄付金として学校に渡した。
放課後になり、高校の裏門そばの花壇に紫が水やりをしていると繭子が声をかけてきた。
「どう?」
「まだ何も生えてこーへん」
あの日、モワモワ達が現れた時に彼らは二人の頭上に乗っていたわけだが、浅岡寺に戻るとお互いの髪に茶色の粒がくっついていることに紫が気づいた。繭子は、
「糞やろ」
と一刀両断したが、紫はそのまま自宅に持ち帰り、夏休み明けに高校の花壇に植えてみることにした。正直、本当に種なのかわからないし、生えてくるものは手に負えない植物かもしれない。繭子なんかはお気楽に、
「何か生えてきたらさ、新種の植物ってことで高く売れるんちゃうか」
などと言っている。新学期からは予備校に通い始めたらしく、忙しそうだ。
紫のほうは、久しぶりに登校してみると授業にはついていけないし、友人も特にいない。でも、花壇の水やりを欠かしてはならないというささやかな義務感から学校に顔を出している。そうしていると、たまに「ジュンちゃん騒動の時にテレビに出てた?」と声をかけられることもある。繭子ばかりにスポットライトが当たっているように感じていたが、見ている人は見ていたようである。
モワモワ達の星は、本当に平和になったのか。
高校の図書室にある惑星の図鑑や、天体についての本を片っ端から読んだが何もわからない。むしろ、謎は深まるばかりだ。
ここ数年の間に、太陽系外で水があると確認された惑星は複数ある。地球外生命体の存在も期待はされているものの、その姿を捉えたものはいないのだ。
「芽が出たら、おもろいねんけどなあ」
湿った土からは、今のところ何も顔を出しそうにない。実はまだ植えていない種が手元にいくつかあるので、それをこことは違う場所に植えてみても面白いかもしれない。あの空き地とか、筒井川の土手とか。
裏門を抜けた紫と繭子と入れ違いに、エアコン設置のための業者が、ミニバンで二人の横を通過して学校の敷地へと入っていった。
久しぶりの執筆で、半年以上だらだらと書いていました(昨年の夏のことです)
短いお話ですが、楽しんで読んでいただけたらと思います。




