ザック・トレイシー家の使用人たち①
ザックの屋敷はアレクの屋敷に比べると一回り以上小さいが手入れの行き届いている花壇や道はどこか懐かしさを覚え安らぎを感じられるものだった。
屋敷の中は白を基調にまとまった雰囲気だった。まだ物が片付いていないと聞いていたが、ある程度の物はあるべきところに配置されておりさほど片付けには手間取らない印象を受けた。
「ではモリス。後は頼んだ。俺は部屋で仕事をしている」
「はい!任せてください」
去って行くザックを二人でに送った後「じゃあこっちに来て来て。皆待ってるはずだから」とモリスに連れていかれた先には三人の男性と一人の女性が待っていた。
一番に声をかけてきたのは眼鏡をかけた男だった。
「おかえりなさいモリス。道中何も問題は起こしていませんよね」
「はい!」
「ならばよろしい。それであなたがメアリーですね」
「はい。メアリーです。侍女として今日からよろしくお願いいたします」
メアリーが一礼すると皆がそれぞれによろしくと返事をする。
「では自己紹介と行きましょうか。私はヒースト。この屋敷の執事です。何か相談事があれば私に声をかけてください。日中はザック様について出かけていて不在の事もありますがその場合は休憩室に手紙でも置いておいてもらえたら中身を確認後返答します」
ヒーストと名乗った男は銀フレームの眼鏡をかけた高身長のガタイの良い人だった。
ザックに比べると細身に見えるが、世間一般に見てもヒーストは他の人から羨ましがられるような立派な体格をしていた。
「俺の名前はモリス!って、一緒にここまで来たんだから流石に覚えてくれてるよね?あ、ちなみにヒーストさんは仕事面はすごい人だけど家事とか家具の修理とか一切できない人だから、そういう面で困ったら俺たちに声をかけてね。あ、こっちは双子の兄のハリスだよ」
「どうもハリスです。ザック様に雇われてる私兵です。何か困りごとがあったら聞いてください」
笑顔いっぱいのモリスとどこか気だるげなハリスは双子だと紹介されなければ分からないくらい見た目の性格も違うようだった。
モリスは陽があるとオレンジ色に輝く茶色の髪で目はクリクリとしている。大型犬を思わせるような人だ。
ハリスは髪の色こそ茶色だがモリスよりも暗い色で目は垂れ目気味だ。
「私たちは夫婦でこの屋敷の料理を担当しています。私がロコでこちらが妻のサラです」
「初めましてメアリー。ここでは私たちが一番の年長者だから何かあれば相談に乗るからね」
細身のロコ、少しふくよかなサラはとても仲睦まじそうな夫婦だった。
「もともとは騎士団の宿舎の一つでロコが料理、私が給仕や皿洗いなんかをしていたの。六十近くなっていつまでこの仕事できるかしらねーって話していたらザック様が自分の屋敷に来ないかって誘ってくださったのよ」
「ありがたい話です」
サラの話にロコはうんうんと頷く。なおもサラが話そうとしたところでヒーストが話に割って入る。
「サラ、またあとでいくらでも話す機会はありますから」
「あら、ごめんなさい」
「いえ。では話を進めます。ザック様はあまり屋敷に人を増やしたくないとのことだったので今はこのメンバーが全てです。庭師やロコ夫妻が休みの時に代わりに来てもらう料理人がいますが」
「では侍女は私一人でしょうか?」
「えぇ、そうなります。と言ってもモリスとハリスは手が空いたときは屋敷の掃除もしてくれているのでこれからはメアリーが主となって二人を使ってください」
「やることあるほうが燃えるんで何でも言ってね!」
「僕はほどほどの仕事でいいですから」
ガッツポーズをするモリス、ため息交じりのハリス。
双子と言えども行動も思考も全然違う人間なのだとそれだけで分かる。
「あと就業時間等の説明ですが、これには皆さんには必要ない話ですね。メアリーだけここに残って皆は各自持ち場に戻って仕事をしてください」
ヒーストのその言葉を皮切りにぞろぞろと皆が部屋を出ていく。モリスだけは最後まで「また後でー!」と手を振っていた。




