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雇い主候補の訪問①


「明日にはトレイシー伯爵が会いに来るって」

「無視されて終わりかと思っていました」


 食後の紅茶を楽しんでいるときに目の前に座っている男、アレクにそう言われた。

 アレクの手にも紅茶が入ったカップが握られている。

 本来であれば身分差がある二人は同じテーブルにつくことはありないことだ。しかしこの屋敷の中だけでは違う。

 アレクはとても親しい友人をもてなすかのようにメアリーを扱ってくれる。

 主人がそんな態度なのだから執事であるキースもそれにならう。そして他の使用人たちも。

 メアリー本人はアレクが友人などおこがましくて言えないがアレクはメアリーにはっきりと言う。君は僕の大切な友人だと。


「いや、僕もそれはちょっと危惧してたけどやっぱりトレイシー伯爵は経歴だけで人を判断するような人間じゃなかったってことだよ。良かったね、あそこに勤めれば君の将来も安泰だ」

「まだ採用されると決まったわけでは」

「されるよ」


 アレクは間髪入れずに断言する。


「君は自分が思っているよりも優秀だし気遣いができる。それに」

「それに?」

「君は過去に縛られない。囚われない。だからこそトレイシー伯爵の不利益になることなんてしない」

「それは買いかぶりすぎでは?」

「そうかい?」

「私が悪意を持ってトレイシー伯爵様に近づき殺すことだって」

「ありえないありえない。それは絶対にありえない。そもそもどうやって殺すっていうのさ。確かに女性にしては力持ちだけど男の首を折れるような腕力はないだろう。しかもあのトレイシー伯爵だよ?熊みたいに大きいんだよ?君がナイフで刺しても死ぬことは無いよ」


 ないないないない、絶対にない。ぶんぶんと首を横に振るアイクを見てメアリーはふふ、と笑いを漏らした。


「メアリー、君はそうやって笑っているのが似合うよ」 

 そう言ってほほ笑むアレクを見てメアリーの頬も緩む。本当に優しい人だ。

「アレク様、ありがとうございます」

「うん」

 二人はそれから静かにお茶の時間を楽しんだ。

 


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