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6、ギルド評価と、菌鑑定士への依頼

腐敗の森から戻った俺たちは、ギルドの入り口に立った瞬間、視線の波を浴びた。


「……あれが、あの菌の……」

「腐敗の森の調査、生きて戻ったってマジだったんだ」

「やば、全身胞子の匂いするって……!」


ざわつきの中心に、自分がいるのがはっきりわかる。


「お前、ちょっとは気にしろよ……堂々と菌の鍋抱えて帰ってくるやつ、初めて見たわ」


隣のラッドが呆れていたが、俺は気にしない。

菌がいれば、それでいい。


「ルーカス・キノコ・なんとかってやつ、こっちだ」

「……どっからそんな名前出てきた?」

「え、違った?」

「全然違う」



ギルドのカウンターに到着すると、いつもの青年──ツッコミ担当の受付が、微妙に姿勢を正していた。


「……依頼、完了か?」

「完了。腐敗菌は鎮静済み。調査結果もある」


報告書とともに、小瓶に入ったサンプル菌を提出する。

青年の眉がぴくりと動いた。


「ギルドマスターが通せって言ってた。珍しいな、直接面談」



ギルド奥の執務室に通されると、重厚な机の奥に座っていたのは、黒髪の女だった。

白いジャケット。端正な顔立ち。細い目がこちらを見据えてくる。


「君が……菌の鑑定士、ルーカス君ね」


ギルドマスター。名はエリシア。

口調は落ち着いていたが、その目に浮かぶ光は明らかに“好奇心”だった。


「君の噂、かなり広がってるよ。腐敗の森を無力化? 菌で? 正気?」

「正気です。菌は大体、嘘つかないんで」


ラッドが後ろで吹き出すのが聞こえた。

エリシアは書類を指で弾いた。


「この報告書、正直信じがたい。菌のバランスでモンスター化を解除、暴走源の抑制、さらに菌の意思確認まで……」

「でも、結果は出ました」


そう返すと、エリシアはふっと笑った。


「──気に入った。ちょっと変わってて、ちょっと怖い。だが、現実に“使える”なら、無視はできない」


彼女は新しい依頼書を差し出してきた。


「これは少し機密性の高い案件よ。町の東部にある“アステリア”という集落。そこに今、謎の病が広がっている」

「……病?」

「神官も薬師も原因不明だと匙を投げた。症状は、発熱、幻覚、皮膚の変質。菌性疾患の可能性がある、って医師の一人が言い出してね」


ドン子がぴくりと反応する。


『発熱と幻覚……胞子吸引型の症状じゃ。自然発生とは思えん。誰かが撒いた可能性もある』


俺はエリシアを見た。


「菌で調べろってことですか」

「可能なら、原因の特定。もっと言えば……封じ込め。

医療班の派遣も予定してるけど、先遣として君に動いてほしい」

「いいですよ」

「……即答?」

「菌で病が止められるなら、やらない理由がない」


エリシアはニヤリと笑った。


「……気に入ったわ。支援として、調査補佐を一人付ける。現地で合流して」


そう言って、補佐担当の名前が書かれた紹介状を渡してきた。

──精霊師見習い。名前は、シエナ。

ドン子がすぐに浮かび上がる。


『なんと、精霊師!わらわと波長が合うかもしれぬのう!』


「合うといいけどな……」


菌で病を止める。

それができれば、きっと世界は、少しだけ菌を見直す。

世界よ、菌の実力を知る時が来たぞ。

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