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4、菌の精霊との出会い

翌朝、俺はギルドの裏庭で目を覚ました。


昨日の事件のあと、宿に行くのも忘れて菌と一緒に寝落ちしていた。

土は柔らかく、夜露も適度。菌の声が子守唄みたいに響いてて、まさに極上のベッド。


「お前、ここで寝てたのかよ……マジで菌と暮らせそうだな」


ラッドが呆れ顔で立っていた。手には朝食のパン。


「食っとけ。昨日のお礼だ」

「……菌と一緒に寝てたんで腹は減ってないけど、いただく」


パンにかすかに付いた発酵菌の香りを楽しみながら頬張る。


「……で、今日は?」

「森に行く。ちょっと気になる菌があったんだ」


ラッドは目を丸くしたが、何も言わず頷いた。



森に入ると、空気が昨日よりも湿っていた。

地面に耳を近づけると、菌糸のざわめきが感じられる。


(……やっぱり、ここにいる。昨日の調合中、反応してたやつ)


ある地点に足を踏み入れた瞬間、ふわりと空気が変わった。

土の匂い。胞子の舞い。温度と湿度が一気に高まる。


「……うお、なんだこれ。菌の濃度が異常」


この感じ──菌が、“集まってる”だけじゃない。

まるで、誰かが呼んでいるような……


『──お主、菌の声が聞こえるのか?』


ピタリと足が止まった。


空耳……いや、違う。

この“響き”は、確実に頭の中に直接届いている。


『ふむ、ようやく来たか。わらわを起こせる者が』


地面がポコリと盛り上がり、土が舞い上がる。

白い胞子が宙を漂い、そこから──何かが現れた。

ちんまりとした体。

椎茸のような傘をかぶり、ふわふわしたマントのような胞子衣をまとった小さな少女。


「……えっ、き、菌……? しゃべった!?」

『失礼な。わらわは菌そのものではない。菌の精霊、ドン子じゃ』

「……ど、ドン子……?」

『正式には、“精霊・ドン・マルチエータ・ドン子三世”じゃが、長いのでドン子でよい』


あ、うん、確かに……長ぇな。


「精霊ってことは、菌の……?」

『うむ。長きにわたり、誰かがわらわの声を聞いてくれる日を待っていたのじゃ。そなたは、ようやくその資格を得た“菌の使い手”と見受ける』


ちょっと偉そうな口ぶり。でも、声は鈴みたいにかわいい。


「……あのさ、なんで俺にだけ見えるの?」


『そなたのスキル──【菌鑑定士】は、視るだけでなく“語る”領域に踏み込んでおる。

いわば、菌と心を繋げる力じゃ。わらわが認識されたのも、その延長じゃな』

「マジか……ついに菌と喋れる時代が来たのか……!」


しゃがみこんでドン子を凝視する。


「すげぇ……傘の質感、カサブタじゃなくてベルベット……! 胞子量も……いや、待て、これ自己再生菌?」

『わらわのマントを分解するな、変態か貴様は』

「すまん、菌フェチなもので……」

『ふむ、やはり変態じゃな』


怒ってるのか呆れてるのか、ドン子はふよふよと浮かび上がった。


『そなた、わらわと契約する気はあるか?』

「契約って……何するの?」

『簡単じゃ。わらわの力を借りた菌調合や、精霊階級の菌共鳴が可能になる。ただし……同時に“菌の領域”へ深く踏み込むことにもなるぞ』


つまり、より菌に近づける──ってことか。


俺は一瞬、息をのんで、それから微笑んだ。


「もちろん。俺は菌の力で、もっとたくさんの命を助けたい」


ドン子がちょっとだけ目を丸くして、それからニッと笑った。


『うむ、良き返答じゃ。では、契約は成立とする!』


宙に胞子が舞い上がり、俺の周囲で光の粒がはぜる。


『これより、そなたと共に歩もう。わらわが菌の精霊・ドン子である!』


(ドン子……どんこ……あ?!冬菇か!)


「よろしくな、ドン子」



こうして、俺の旅はひとりから、ふたりになった。

菌の声が、今までよりももっと近くに感じる。


次の任務は、“腐敗の森”への調査依頼。

菌と歩む旅路が、少しずつ世界を変え始めていた。

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