決戦前夜
一人の女性が、公園のベンチに座っていた。
彼女は快晴の夜空を見上げて大きく息を吐く。
「眠れないのか?」
そこに一人の男性がやって来て、女性に声を掛ける。
「うーん、まあね」
女性の返答に微笑すると、男性は女性の隣に座った。
少し離れた所にある街灯に照らされ、夜でも相手の顔ははっきりと見える。
「明日だなあ」
「そうだね」
二人の間に沈黙が流れ、近くを流れる小川の心地よい音が聞こえる。
「魔王倒したらさ、どうする?」
「え? どうするって、何を?」
「いや、俺らさ、一年ぐらい旅してきた訳じゃん? 最初はお前と二人で始まったのが、今じゃ三人も仲間が増えてさ」
「良かったよねー、ホント。最初二人で魔王倒してこいって王様に言われた時にはどうなるかと思ったよ」
「まあなー。ホント無いよなー、あの王様」
女性は俯き、先程よりも小声で話し始めた。
「魔王ってさ、やっぱ、倒さなきゃだめなのかな」
そのまま言葉に、男性は驚いて女性の方を向く。
「は? え、ここまで来て? どうした?」
「だってさ、魔物って街の人間を襲ってる訳じゃないじゃん? 街から出た人間は襲われることがあるけどさ、それは傭兵とかが護衛すればまず大丈夫じゃん」
「いや、だからってお前」
「大体さ、20歳にもなってない子供に魔王倒しに行けっておかしくない?」
「いやいや、だって俺しか魔王にとどめ刺せる聖剣使えないからだろ」
「だとしてもさ、私じゃなくてよくない?」
「は?」
「私より強い回復魔法使える人、町に何人かいたよね? おかしくない?」
「いや、それはだって、お前は俺と仲良かったし」
再び沈黙が流れ、小川の音が急に大きく聞こえる。
「一緒に旅に出る人って聞かれて、君、すぐ私を指名したよね。まさか、それだけが理由とか言わないよね?」
「いや、え、えー…だって」
「周りの大人も「それがいい」って言ったから、断れる雰囲気じゃなかったしさ」
「いや、待って待って。嫌だったのか? 嘘だろ? 何で?」
「痛いんだよ!!」
女性は俯いたまま叫んだ。
「魔法って使う度に頭痛くなるの! 弱い魔法じゃほとんど気にならないぐらいだけどさ、それ繰り返したら頭痛が残るんだよ!」
「いや、そんな」
「「そんな」っつった!? はー! いいよねえ、魔法使わない人は! こっちは戦闘の度に必ず痛い思いしてんのにさ!」
「ちょっとまっ」
「ボス戦はホント毎回憂鬱でしかなかったよねえ! 回復いっぱいかけなきゃだし、攻撃とか防御とか上げる魔法も使わなきゃだし!」
「いや待てって! それならもっと早くに言ってくれれば!」
「最初の方はさー、世界のためって大義もあったし? 弱い回復魔法だけで済んでたからさ、まあいいかなーって思ってたよ。でも最初だけだよねー。最近はもう吐き気する時あるもん」
女性は顔を上げるが、男性の方は一切見ない。
「今こんなでさ、魔王の城とかどうなると思う? 強いやついっぱいいるよねえ! 四天王もいるしねえ! ムリだよねえ!」
そこまで言うと、女性は立ち上がった。
それを見て焦ったのか、男性も立ち上がった。
「分かった! じゃあその、あれだ! 無事に魔王を倒したら…!」
男性は、女性の前に跪いた。真剣な表情で女性を見上げる。
「俺と──結婚し」
「あ?」
冷え込んできた空気に、小川の流れる音でより冷々してくる。
「え…ごめん、聞き間違いじゃなかったら、「結婚」って言った?」
「あ、ああ、そう、言った」
「馬鹿なの? 何でいけると思ったの?」
「いや、えっ…と、あれえ…?」
「え…ちょっと待って。私に好かれてると思ってたの? 嘘でしょ?」
男性は何か口に出そうとしたが、言葉は出てこない。
「ムリムリムリ! はあああ? え、勘違い過ぎるんだけど!」
女性は口を両手で覆いながら二、三歩後退っていく。
「君、「いや」って言い過ぎて、全否定されてる気分になるから嫌なんだよね。結構イライラするんだ、あれ。あと、私の事「お前」って呼ぶのも嫌だわ」
男性はそれを黙って聞いているが、目が潤んでいる。
それに気が付き、女性は男性から目を逸らした。
「あー…まあ、いい機会だったんじゃない? 私達合わないの分かったし、私抜けるわ! ここ大きい街だし、いい回復役見つかるって! うん、それがいいと思うよ!」
女性は手を叩き、頷きながら言った。
「じゃーごめん! 明日皆が起きたら言っといて! ごめんね! 魔王、頑張ってね!」
女性は小走りで遠ざかっていき、その姿が見えなくなると、男性はベンチに座り直した。
「いや、なんでえ…」
男性の頬に涙は伝わなかった。
冷たい空気に、流れて行くのは小川と鼻水だけだった。
初投稿の小説のオチが汚くなってしまいました。
後悔はしていません。
ジャンルをファンタジーにしていいのかが一番迷いました。
一応世界観はファンタジーなので許して下さい。