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第三章 ⅨーⅡ

 言葉を選ぶ様に、ロレンツは言った。

「その、こちらでの生活も悪くはないと思うんだが。もしかして、もう戻って来ないのかな?」

その質問をする傍らで、ベルチェも少し寂しげな表情をする。

「そうですね。とりあえず一ヶ月を目途に、先の事を考えようと思っていますが」

向こうにも万能職ギルド支店はある。働きながらでもやって行く事は出来るだろう。いずれ顔見知りも出来て、快適な環境が整う可能性は高い。風の吹くまま気の向くまま、そんな風に新しく与えられた人生を謳歌出来るなら素晴らしい事だろう。一方でしかし、とも思う。こちらには多少なりと縁が出来てしまった。弟子と呼べる存在も少なからず出来た。まだまだ共に励みたい、という気持ちもあった。

「出来れば帰って来て欲しいぜ。また仕事を頼むかもしれねぇしな。うちの斥候はまだまだ頼りないんだ」

フェリッポのからかう様な言葉に。

「リッポさん!酷いなぁ、これでも頑張ってるのにぃ」

拗ねた様にパミール。ロレンツが笑い声を上げると、五人は皆笑った。この空気感は本当に良いな、とフェスは心から思った。

 翌早朝、フェスはメティス商会裏手に来ていた。マリッツォ行きの隊商に便乗させて貰うのだ。開店前から運輸部門は稼働していた。今は何台もの荷馬車に荷積み等で忙しそうに職員達が動いている。この世界では、商人や万能職など一部の職種を除き、動き回る一般人は多くはない。一時勉学や修行等の為に出る事はあっても、大半が生まれ落ちた場所で生涯を終える。魔獣や盗賊といった脅威と遭遇する危険性が低くはないせいもある。乗合馬車の類もない事はないが、需給の関係か本数は少なく運賃も安くはない。他には護衛やら馬車やらを自腹で用意する(複数人で割勘にする事も多い)、また伝手があれば隊商に便乗させて貰う事も出来た。今回の彼は、護衛依頼を受ける、という形で便乗させて貰う事になっていた。

「よう、また会ったな!調子良さそうじゃあねぇか!」

ジョセフに強か肩を叩かれる。調子が良い、というのは、グレーター・グリズリーの一件など彼の耳にも入っているのだ。左手で肩を摩りつつ(ただのポーズだが)、フェスは笑顔を向けた。

「ティナタンさん、お久し振りです。お陰様で、何とかやっています」

その返答に、ジョセフは怪訝げな表情を浮かべた。

「何言ってんだ?あんたが活躍出来てんのはあんたの実力あっての事だろ?」

そう言われ、内心フェスは反論した。いやいや、今日の私があるのは貴方やメティス商会、『黄の猟犬団』との邂逅があったからで、そういう人々に対する感謝の表明なんですが。しかし、そんな議論はする気になれなかった。

「そう、ですね。マリッツォまで宜しくお願いします」

話題を変える様にそう言って一礼すると。ジョセフはニカッ、と笑った。

「そいつぁお互い様さ!あっちにゃ長居すんのか?」

「それは何とも。満足するものが得られるまで、としか」

首を振りながらフェスは答えた。ジョセフは少々心配げな表情をした。

「そうかぁ。まぁ、落ち着き払った都市だ、物足りねぇかもなぁ。飽きたらまた戻ってくりゃ良いさ!そん時ゃあエールを奢るぜ!」

また肩を叩かれた。と、サブリーダーが出発準備が整ったと大声で知らせてくる。ジョセフは右手を上げ返答代わりとした。

「そんじゃ、さっそく仕事と行くか」

二人は連れ立って隊商の馬車列へと向かい歩き出した。

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