第三章 ⅨーⅠ
フェスにとって二週間は瞬く間に過ぎ去った。万能職として依頼をこなしつつ、遅い時間になってもメティス商会に向かう。そこでは商会職員達が彼を整列して待っていた。ジーノとの模擬戦(というより甲家無心流の格好のデモンストレーションとなったが)の効果か講習の参加人数は増加し、みな真面目に打ち込んでくれていた。時折エリーナも顔を出しては、共に汗を流していた。一週間が経過し、フェスはジーノをリーダーとして熟達度目覚ましい男女四人を指導役に指名した。彼がナーダを離れた後の事も考え、その四人には彼が直接指導し、あとは任せる形にした(もちろん彼も監督している状態で、だが)。毎日二時間程の講習で、彼は破格の時給を支払われていた。打ち合わせの際にそんなに貰って良いのか訊ねたのだが、アランによれば数人を道場や教練場の類に通わせるより遥かに安上がりだという。そういうものか、とその時は納得した。金銭にうるさい商人にとって、それが合理的なのだろう、と。さて。二週間という限られた時間ではあったが、彼は弟子というものを持つ喜びに覚醒しつつあった。まだまだ自分は未熟で、他人に教授するなどおこがましい。そういう思いを抱えながらも、そういう自分でも他人の役に立てるかもしれないと、本来それが役に立つ状況に遭遇しないのが最善なのだと理解しながら甲家無心流の、ほんの一部ながらも継承者が不意に何人も出現した事に、戸惑いと喜びを感じていた。もちろん彼ら彼女らが、この先何世代も継承してゆく様な事はないだろう。それもまた運命、と彼は割り切る事にしていた。そうしてメティス商会との約束を果たし、今は朝の、まだまだ静かな万能職ギルドのテーブルに、新生『黄の猟犬団』とフェスは着いていた。
「これが紹介状。大切に保管して。学院に話は通してある。学院の関係者にそれを見せて学院長への面会を願えば、案内してくれる筈」
言いつつベルチェが差し出してきたのは、蝋封された大き目の封筒だった。ただ、普通の蝋封と違い家紋等の代わりに小さな魔導石が埋め込まれていた。
「了解しました。どうも、お手数掛けました」
受け取りつつフェスは言い、一つ頭を下げた。
「学院での経験が、貴方の役に立ってくれれば嬉しい」
言いつつ、ベルチェは巾着袋を取り出しテーブルの上に差し出した。
「それと、我が師に会ったらこれを渡して欲しい」
「これは、何ですか?」
巾着袋を見詰めつつフェスが問うと。
「ダンジョンの秘密の横道を隠していた魔導石。私の力では扱えなかった。我が師に調べて貰いたい。中に手紙が入っている。頼める?」
問いに、フェスは満面の笑顔と共に大きく頷いた。
「もちろんです。あの魔導石を調べて貰うんですね?渡します」
手に取ると、腰のベルトに括り付ける。
「それで、あちらにはどの程度いるつもりなのかな?」
軽い口調でロレンツが問う。フェスはしかし小さく首を振った。
「今のところは何とも。多少なりと軍資金は出来たので、満足出来るまでいようと思います」
その返答に、パーティーの面々の表情が、心なしか曇った様だった。




