第三章 ⅦーⅡ
最前列に立つその青年は、結構な体格をしていた。フェスより十センチは身長が高く、何か武術でもしているのでは、と思える筋肉質な体型をしている。年齢はフェスと同じほどと見えた。厳つい面に嘲笑めいた表情を浮かべている。
「おい、ルーティ君!」
横からアランが割って入るが。フェスは彼を制止し、尚も言い募ろうとしている彼を下がらせた。
「失礼。貴方のフルネームをお願い出来ますか?」
その姓に聞き覚えがあったので、あくまで柔和な表情でそう訊ねると。
「私ですか?ジーノ・ルーティですが?」
相も変わらず嘲笑する様な表情で返答する。
「ジーノさんですか……つかぬ事を伺いますが、パミールという人物をご存じですか?万能職なのですが」
そう問われて、ジーノは少々驚いた様だった。
「それは、弟の事ですか?弟と何かあったのですか?」
ジーノの表情に警戒の色が浮かぶ。万能職というものに、何やら偏見がありそうだった。
「いえ、先日一緒に仕事をしまして。そうですか」
小さく頷く。兄弟という割には随分と違うものだな、と思う。
「一体何なんです?」
ジーノの問いをフェスは無視した。
「さて、それでは話を戻しましょう。貴方は私に疑問を持っているのですね?」
「はい。失礼ながら私もこれで少々、腕っぷしには自信がありましてね。そういうのが運輸部門には少なからずいる訳です。果たしてこんな講習がいるんですかね?」
得意げに言ってのける。その言い草に、アランは背後のエリーナを見た。彼女は一見平静を保っていたが、眉根がピクピクと震えていた。一方でフェスは、なるほどと内心頷いていた。運輸部門は体力勝負なところもあるだろう。更には値の張る商品と共に市壁外に出る危険も込みの部門なのだ、それなりに自信と覚悟のある者達が配属されている筈だった。しかし、と思う。戦う為のハードウェアは充分だったとして、ソフトウェアはどうか?喧嘩では負け知らずだったとして戦場や、また盗賊、魔獣等に囲まれたといった、実際に命を奪い合う現場で(もちろん職員達が戦場に赴く事はないだろうが)、彼らの精神は十全に肉体を駆使し得るのか?肝心な時に思考停止し棒立ちになっていては何の意味もない。そこに甲家無心流の、ほんのさわり程度でも学ぶ意義があるのだろう。剣呑な現場で自分達にはそれに対処しうる術がある、という自信があるだけで、きっと己を護る程度の事は出来る筈なのだ。
「なるほど、ただ、私としても役目を引き受けた以上、何もしないという訳にはいかないのですよ。そうですね……それでは少し、貴方ご自慢の腕っぷしを見せて貰っても良いですか?」
その言葉に、ジーノは口元を歪めた。
「恥をかいても知りませんよ?」
「そうならないよう、精一杯務めましょう」
あくまでフェスは柔和な笑顔で返す。それがジーノを苛立たせた。こいつ、赤っ恥をかかせてやる、と闘志を燃やすのだった。




