第三章 Ⅵ
相も変わらぬ暗闇の中。誰かの溜息が聴こえた。
『はぁぁ。せっかくの実験場が潰された。手間暇を掛けた横道が封じられたのだ』
溜息の主は三人目だった。忌々しげな口調になる。
『人共に気付かれた、という事か?大丈夫か、騒がれるのは困るぞ?』
一人目が咎めだてする様な口調で訊ねる。
『……とりあえず心配はいるまいよ。誰の仕業か、ギルドでは秘密裏に確認している様だからな。殆ど話も広まっていない様だ』
『それは何よりだ。今後は細心の注意を払わねばな』
重々しい口調で二人目が言う。
『結局のところ、成果はなしか?』
揶揄する様な一人目の口調に。
『ふん。そちらこそどうなのだ?精神に異常をきたした者達について、一部で騒がれている様だが?』
むっ、とした様な口調で三人目がやり返す。
『止むを得まいよ。調合した薬物は実際に使用してみなければな。個体差による効果の違いもある。なに、情報は収集出来ている。成分と配合量等の微調整を試しているところだ……それとも、人共に試しては駄目、というなら貴様でも良いのだが?』
相も変わらず揶揄する様な一人目の口調に。
『馬鹿な!人共と我らでは差があるのだ、試す意味なぞない!』
『そう言って、本当は怖いか?』
鼻で笑うかの様な一人目に。
『それこそ馬鹿な、だ。効く筈もない!』
ムキになった三人目の反駁。と不意に響いた、大きな足を踏み鳴らす音に会話は途切れた。
『これ以上の無駄話は無用だ。その薬物の完成目標はどうなっている?』
足を踏み鳴らした二人目が問うと。
『あ、ああ。先程も言った通り、成分の再検討と配合量の微調整が必要だ。あと二週間余りで最終的な検証実験に入れるだろう』
一人目が少し怯えた様に言う。二人目は、よほど恐ろしい存在なのだろう。
『宜しい。魔獣の進化実験については、少なくともこの近辺にあっては今後慎む様に。どうあっても行う、というのであれば、山脈にでも籠る事だ』
『……承知した。当面は人共の動向を探る事に専念しよう』
渋々、といった口調で三人目。
『他には何かないか?ないのならば解散とするが?』
二人目の提案に、三人目が再び口を開く。
『実は、実験場を暴露した人物について調査したいのだがな、宜しいか?少し情報を耳にしたのでな』
『……それを調べて、何とするのだ?』
何かを疑う様な二人目の口調。
『なに、今は調べるだけよ。将来、もし我らの目的を阻害する様ならば、何か考えねばならんだろう?』
軽さを心掛けた様な三人目の口調。暫しの間があり。
『……良かろう。細心の注意を払う様に。他になければ解散とする』
二人目のその言葉と共に、三人の気配は暗闇の中から消え去ったのだった。




