第三章 ⅡーⅤ
カルナは今一度フェスを上から下まで見回すと、満足げに頷いた。
「宜しく頼むよ。依頼の片手間でお願いしたいね。ギルド内でも評判になっているしね」
「それは好評ですか、それとも悪評?」
真面目な表情で問うと。
「ははは!私がこれだけ上機嫌なんだ、判るだろう?『黒の毒手』をやり込めた、って話はかなり出回ってる。快哉を叫んでる連中も結構いるみたいだね」
「あの人達は、あまり好かれていないんですか?」
言って、そういえば『貸し作り』に誰も応じなかったと言っていたな、と思い出す。
「あんたも会ったなら判るだろう?それに、良くない噂も色々あるしね。例えば、『依頼達成の押し売り』とか」
「それは何ですか?」
フェスが問うと、カルナは憂鬱げな表情になった。
「そうだね。例えば、新人パーティーが討伐依頼を受けるだろ?そういうのに近付いて、依頼内容を知ったら先にこっそり達成しておく。そして、それを新人パーティーに押し売りするのさ。要らないならギルドに依頼達成してしまった、って申告するとね。新人ってのはたいてい力量も資金も不足がちなもんだから、中には乗っちまう者もいるだろう。もしそんな事がこちらにバレたら、一発登録抹消の上永久追放だ。受けた依頼はあくまで自分の責任で行わなきゃならない。あんたも気を付けてな。乗った連中は、押し売りした側の言う事を聞くしかない。はっきり言って、『黒の毒手』は腕は立つ。銀ランクパーティーに相応しい程度にはね。それでも厄介そうな依頼なら、そういうハメた新人を連れて行ったりする。合意の上でパーティー同士が組むのを、こっちは止められない。あんたと『黄の猟犬団』みたいにね。そして、恐らく連中はその新人パーティーを囮なんかに使ってる」
「恐らく、という事は、確証がないのですか?」
フェスの問いに、カルナは額を押さえつつ頷いた。
「……残念だけれど、毎年幾つかのパーティーや個人が、消息不明や遺体で発見されていたりする。そのうち、ここ数年で三つのパーティーが『黒の毒手』と接触しているのが目撃されてるんだ。ただ、一緒に行動してたかは判らない。『依頼達成の押し売り』にしても、一応証言はあるんだが」
「それでも彼らを追い詰められない、と?」
悔しげにカルナは頷いた。
「証言したのは、『黒の毒手』と揉め事を抱えてるのがよく知られてるパーティーでね。要は陥れる為の嘘かも知れない。まぁ、『黒の毒手』が否定すれば証拠らしい証拠もない。こっちとしても、これ以上は手の打ちようがないのさ」
深く溜息を一つ。
「他にも、色々あるみたいだねぇ。武具やら消耗品やらを調達してあげて、後から高値で代金を請求するとか。まぁこれは、規則違反とは言い切れないけれどね」
「つまり、色々と頭痛の種、という事ですか?」
カルナは一つ頷いた。
「昨晩の一件であんたに一目置く万能職も結構いるみたいだが、気を付けるんだよ。ただで済ます様な、可愛い連中じゃあないからね、ヴォティッチオは別にして」
「肝に銘じておきます。他に何かありますか?」
「いや。時間を取らせて済まなかったね。これから商会に向かうかい?」
「ここでの用件を済ませたら、そうするでしょうね」
「だったら。もし会えたら会頭にも宜しく言っといておくれ」
「判りました。ではこれで」
一礼し立ち上がるフェス。足早に部屋を後にしたのだった。




