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第三章 ⅡーⅣ

 なかなか収まらない笑いで、苦しげにカルナは言った。

「はははは!あれ相手に、身を護る、為に……戦いを挑んだって!?」

エリザベータがカルナの脇を肘打ちする。ちょっと待って、という風に左手で制し、カルナは呼吸を調えた。

「ははは……はぁ、あーあ。悪かったねぇ、笑ったりして。別に馬鹿にしてる訳じゃないんだ。ただ、あの化け物相手に、身を護る為に正面から戦いを挑むなんて……はははっ!」

また笑いのスイッチが入ってしまったカルナ。エリザベータが代わりに頭を下げる。

「すいません、本人の言の通り悪気はないんです。ただ、一撃でグレーター・グリズリーを仕留めた新人万能職に、ぜひ会っておきたいとこうして来て頂いた訳で。『黄の猟犬団』から話を聞いた時にもこの状態だったんです」

そう言い訳する間にも、カルナはどうにか笑いを収めた。今度こそ真面目な顔を取り繕うと、再び上体を乗り出す。

「いやいや、本当に悪い。リズの言う通り、悪気はないんだよ。あんたみたいに、銅ランクであの判断力と実行力を兼ね備えた強者つわものは滅多にいないからね。こう何とかいう格闘術を修得してるんだって?あの剣術はどうやって身に付けたんだね?」

フェスは小さく首を振った。

「いいえ。私の流派は格闘術に限らず、戦場で見かける大抵の武器を扱う事を目的としています。そうでなければ、生き残るのは難しいでしょう?ただ、私は格闘術が一番得意、というだけでして」

「あの一撃を見舞った剣が得意じゃないって、冗談だろう!?」

思わずカルナは上体を引いた。目の前の銅ランク万能職が冗談を言っているとは思わなかったが、エリザベータも驚きを表している。フェスは肩を竦めて見せた。

「あれが上手くいったのは、正直只の幸運でしてね。魔術師にも関わらず、ショーン=コールさんが近接戦を仕掛けてくれたのであの魔獣の癖が掴めました。カタリノさんの剣も手近にあって、後はただ、己の鍛錬に全てを託すだけでしたから」

「鍛錬に全てを託す、ってのはどういう意味だい?」

判らない、という仕草をするカルナに、少し考えてフェスは口を開いた。

「そうですね。私の流派の名前には、心を無にする、という意味が含まれています。これは余計な思考や感情を排し、自分が蓄積してきたものに身を任せる、という意味です。もちろん、それで生き残れるかどうかは判りませんが。後は運次第、と割り切る訳です」

平然と言ってのける。カルナは相好を崩した。

「なるほどね。そうやって割り切れるから迷いも恐れもない、って事だね?でもねぇ。命の遣り取りをしてる場面で、どんな上位ランクだって怖気づいたり迷ったり、そんな風にいかないのが普通さ。どんな鍛え方をして来たんだい?と、そうだそうだ。メティス商会から言伝があったね」

エリザベータの方へ視線を遣ると、メモを渡してくる。

「これこれ……ええと。ちょっと職員を鍛えて貰いたいので、ついては都合の付く日にメティス商会に来て欲しい、とさ」

メモを差し出す。フェスも受け取り一読した。

「……職員さん達を鍛える、ですか。護衛が付くのに、必要なんでしょうかね?」

首を捻ってみせる。カルナは意地悪そうな笑みを浮かべた。

「まぁ、その護衛に掛ける費用を押さえたいんじゃないのかい?メティス商会の会頭はやり手だからねぇ」

意味ありげにフェスを見詰めてくる。

「面識がおありですか?」

「そりゃあ、うちにとっちゃ大得意だからねぇ。こういう相手に対しては普通に依頼を出すんじゃなく、声を掛けられる毎に直接こちらから斡旋するんだよ。ディナタンは知ってるだろ?赤い髭のさ。彼のパーティーみたいにほぼ護衛専門なのが四、五パーティー、ナーダには常駐してる」

「自前で抱え込むより、その方が安上がり、という事ですね?」

「まぁそうだね。今度はそれもケチりたい、って事なんだろう。後は」

ニヤけながら口を閉じるカルナ。その意味が判らないながらも、フェスは一つ頷いた。

「判りました。商会に顔を出します」

メモを四つ折りにすると、フェスはポシェットに丁寧に仕舞った。


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