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第三章 ⅠーⅡ

 通された応接室には壮年らしき、見事な体格をした男性が待っていた。衛士隊の制服が窮屈そうに見える。この衛士隊本部を預かる司令だった。

「よく来てくれた、掛けたまえ」

笑顔で向かいのソファを右手で示す。フェスは一礼し、腰を下ろした。

「私はマザッチオ。ここの司令をしている」

フルネームはルーカス・マザッチオといった。

「どうも。ウラルクです」

テーブル越しに差し出された右手を、フェスは普通に握った。鍛錬を積んだ者のみが持ちうる、皮の分厚い、力強い手だった。握手が済み座り直すと、司令は単刀直入に切り出した。

「ここに、賞金を預かっている。金貨六十五枚だ」

手配書とずっしり重そうな布袋を、テーブルの上に置いた。手配書の金額と合致しているのを確かめ、布袋を取ると口を開き、中をざっと見る。続けて重さを確認した(LMが太鼓判を押してくれた)。ポシェットに仕舞った。

「賞金としては、多い方なんですかね?」

何気なくそう訊ねると、ルーカスは不愉快そうな表情になった。何か不味い質問でもしたのか、とフェスは訝しんだが。

「……どうかな?村四つを襲い多数の死傷者、拉致者を出し、十数件の街道働きのほか強盗も多数。危うくなれば仲間を囮にして逃走する事を繰り返してきた、そんな男の賞金としては少々物足りないかもしれんな」

吐き捨てる様に言う。この内容を思い出したからこそこの表情になったのだ。なるほどと、さしものフェスも嫌悪感を覚える様な内容だった。

「……まぁ、今回はこれで満足すべきでしょうね。ところで……その、この近辺では、精神に変調をきたす様な、危険な薬物でも出回っているのですか?」

先程の男性の事について、かなり迂遠な表現で訊ねてみる。もしそういった薬物が出回っているのであれば、面倒事に巻き込まれないよう注意が必要だと考えていた。ルーカスは不思議そうな表情をした。

「いや?確かにその類の常習性を持つ薬物も存在するが、接する事はまずないだろう。回復薬や解毒薬を適切に使用して完全に抜く事が出来るし、一度治療すればほぼ効果がなくなるからな……もしかして、相談かな?」

フェスがそういう常習者を知っているのか、とルーカスが訊ねてくる。

「いえ、そうではなくて。正面玄関で待っている時に、その、奇妙な発作を起こした男性を見掛けたもので」

その言葉を聞くや、ルーカスの表情は曇った。小さく溜息を洩らし首を振る。

「恐らく君が目にしたのは、そういう事ではないよ。彼は一昨日の夜、仕事帰りに行方不明となって、昨日の夜、道をふらつきつつ歩いているのが発見された。彼には記憶に障害があり、行方不明の間の事はほぼ覚えていない。思い出そうとすると、何かに怯える様に奇声を上げ蹲ってしまう。それで今朝、引き取りに来て貰った訳だ」

「理由は判らないのですか?」

「そうだな。薬物中毒でないのはほぼ確実だろう。あるいは、未知の物によるのかも知れんが」

重苦しそうに口を閉じ、黙ってしまう。先程の口ぶりからして、薬物の治療を試みたのは確実だろう。そして有効性を見出せなかったのだ。どうやらこの辺までか、とフェスは判断した。

「そうですか。では、私はこの辺で」

フェスに続いて、ルーカスも立ち上がる。

「とにかく、君があの場にいてくれて助かった。あんな下劣漢を我が国で暴れさせる訳にゆかんのだからな」

再び右手を差し出してくる。二人は固い握手をした。

「お役に立てたなら幸いですよ」

「ああ、充分だ」

左手で、ルーカスはフェスの肩を叩いた。握手を解くと、一礼してフェスは部屋を後にしたのだった。


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