第三章 ⅠーⅠ
翌日、二日酔いもなくいつも通り起床したフェスは、朝のルーティンをこなすと宿を後にした。軽く朝食を摂り足を向けた目的地は万能職ギルドではなく、東区画にあるナーダ衛士隊本部だった。主としてナーダ内の治安維持を担当し、フェスが初めて市を訪れた時に盗賊を引き渡した相手だった。死体の中に賞金首があったのだが、その賞金支払いの準備が整う頃合いだったのだ。
本部は四階建てのレンガ積みで、役所然として飾り気がなかった。数段の階段を上り正面玄関を入ると、すぐ横の受付で職員に用件を告げる。職員からは近くのベンチで待つように言われ着席すると、受付に『離席中』の札を出し建物の奥へと向かう職員を見送る。それと入れ替わる様に、二人の男性が奥からやって来た。一人は衛士で、もう一人は顔色の悪い、視線の定まらない二十台位の痩身だった。と、不意に玄関側から女性の声が上がった。
「パム!」
二つの足音が、痩身の男性へと駆け寄った。一人は四十代半ばだろうか、恰幅の良い女性。母親だろうか。もう一人は、男性より若いだろう男性。フェスは弟と推測した。女性が男性に話し掛けているうちに、弟(推測)の方は衛士と小声で話している。心ここにあらず、という風だった男性はやはりぼんやりと女性へ視線を向け、数瞬後。
「ぁぁああああああぁぁぁぁーー!」
その場に居合わせた者達が凍り付く様な絶叫を上げ、頭を抱えて蹲ってしまったのだ。
「ああ、まただ」
女性と、衛士に弟(推測)は三人で背中を摩るなどしつつ男性に話し掛ける。それを眺めていたフェスは、薬物中毒かなと想像した。これまで幾つもの採取依頼を受け、ギルドの学習室で色々と予習してきた彼は、薬草等の薬効、それらが使用される薬剤等について多少なりと知識を蓄えていた。そこで、この世界では即効性の解毒薬が幾つもある様だが、そういった物でどうにかならないのだろうか、などと思考を巡らす彼の眼前で、蹲る男性は小刻みに震えつつ唸り声をあげていた。そんな男性に、女性が大丈夫だからと、何の心配もいらないと、優しく話し掛け続けている。と、やがて男性は脱力し、両手を垂らし項垂れた。三人がかりで立たされた男性は、女性と弟(推測)に、まるでマネキンを運ぶかの様に玄関の外へと連れ出されて見えなくなった。その一部始終を最後まで見届けた彼へと。
「お待たせしました、こちらへ」
声を掛けられ振り返る。先程の職員が傍らに立ち、笑いかけてくる姿があった。
「ああ、はい」
立ち上がり、職員の後に続く。数分歩き、階段で四階へと上がった。




