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第二章 ⅩⅣーⅡ

 ロレンツの態度から、何か腹に一物あるだろう事はエネミーネにも容易に想像がついた。

「何だ、それで賑やかだったのか?俺達が、拍手するとでも思ってんのか?」

拍手をする、とは先程描写した通り貸しを受け入れる、という意思表示なのだ。

「そうか。ならいいんだ」

ロレンツはそこで一旦言葉を切ると、意地悪げな眼でエネミーネを見た。わざとらしく、不意に思い出した、とでも言いたげな口調で更に言葉を紡ぐ。

「ああ、そういえば。君の『貸し作り』の場面に居合わせた事があったか。確か、拍手は耳にしなかった様だが?」

笑顔の質が変わった。してやったり、と言いたげな笑顔。つまり、こいつらに貸しを作るなど、そこに居合わせた者は皆まっぴら御免、という事なのだ。その時の情景が思い起こされたのか、エネミーネの面が怒りに歪んだ。一瞥されただけで無反応となればそれは、お前達には人望がない、と正面切って突き付けられた様なものなのだから。少々酔いが回っていたからこその行動だったとはいえ、彼にとっては痛恨事だった。

「てめぇ!喧嘩売ってんのか!?」

最初に吹っ掛けたのは自らの側だろうに、長剣の柄に手を掛け、つかつかとエネミーネがフェス達のテーブルに近付いて来る。その手前で滑る様に割って入った人影があった。フェスだった。彼には、ベルチェを侮辱された『黄の猟犬団』がヒートアップしているのがよく判った。ロレンツは片手半剣に手を伸ばし、フェリッポも傍らの盾を手繰り寄せていた。盾ならば、この状況でいきなりシールドバッシュをかましても問題にはならないだろう。しかし騒動は避けられない。ベルチェは悔しげに視線をテーブル上に落としている。パミールは完全に腰が引けていた。ここは自分が動くよりないと、溜息混じりにフェスは動いたのだ。

「何だてめぇは!?」

恫喝する様にエネミーネが咆えるのに一切構わず、笑顔でフェスは言った。

「ここでは皆さん、仕事の後の一杯を楽しんでいるんです。争い事は止めませんか?」

目の前の優男風が怯む様子の微塵もないのに少なからず動揺したか、エネミーネは更に音量を上げた。

「あ!?すっこんでろ、この優男が!」

フェスの襟首を掴みかけた右手が、フェスの左手に捕捉される。信じ難いほど強い力で手首を締め付けられエネミーネは思わず苦痛の声を漏らした。

「いって、痛てぇ、この、離しやがれ!」

振り解く仕草を見せるとすぐに離す。エネミーネは右手首を摩った。

「てめぇ!暴力を振るいやがったな!?」

何を温たい事を、とフェスは内心思いながら。

「暴力?いえいえ、ちょっと風変わりな握手ですよ。私はこの付近の生まれではないもので。それとも、こちらでは力強い握手を暴力というのですか?」

もちろん握手は嘘だが。しれっとフェスは言ってのける。握手に力を込められたからといって、骨折などしてもいないのに暴力を振るわれたと主張するのは、エネミーネにとっては恥辱以外の何物でもないだろう。それに、他の地域の風習と言われてしまえば、それを否定するのは難しいだろう。が。

「ふざけんな!」

ただでさえ低い沸点に達しようとしていたエネミーネの右手が、再び腰の長剣に伸び掛けた、その時。


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