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第二章 ⅩⅢーⅣ

 不思議そうな顔で、フェスは訊ねた。

「そんな事が出来るんですか?入学しなくても?」

「少数なら、個別授業が受けられる。あくまで教授の空き時間をお借りする、という形で。期間も自由。ただし、学院生の様な特典が受けられないからお金が掛かる。授業料だけでも相当。他に滞在費も考えなければならない。それと、身元確認や手続きも面倒。万能職ならギルドを介して身元確認は済むけれど、手続きも含めて二週間以上は掛かると思う。必ず通るとも言えない。それでも受ける?」

「二週間ですか。その間に資金を作っておきましょう。通らなければ、それも運というものです」

朗らかな笑顔を見せるフェス。

「そう。もし通ったら、私が紹介状を書く。恐らく、学院長と話をする機会もある筈」

言って瞬間、ベルチェは含みありげな笑みを浮かべた。

「そうですか。ところで、その恩師の名前を聞いていなかったと思うのですが?」

そういえば、と、ここで今更ながらに気付き訊ねた。

「……カサンドラ・シェリル=ウーノ。現代魔術史と詠唱魔術を担当している」

「判りました。お会いする日を心待ちにしていますよ」

一つ頷く。ベルチェの口ぶりからして、思い遣りと高い教育熱を備えた人の様だった。

「まぁ、今日これだけうまくいったんだ、運は向いてるんじゃねぇか?」

フェリッポが気楽そうに言うと。

「運は手繰り寄せるものでしょう?特に生き死にに関しては?」

何の努力も鍛錬もなしに生き残れるほど甘い世界ではないだろう。

「つまり、君にはその運を手繰り寄せる力がある、という事だね?」

ロレンツが興味深げに問う。フェスはジョッキを両手で温める様にしながら見詰めた。

「それほど自信がある、という訳ではありません。どれほど努力を重ねても、見離される事はあるでしょう。今日はたまたま違った、というだけで」

元の世界での最期が思い起こされる。自分は十数年間努力を重ねていたが、最後には運に見放された。相手が銃器を持ち出した事を卑怯だとは思わない。それを念頭に置いての戦い方もあった筈なのだから。それが出来なかった、という事はきっと初の実戦に心を吞み込まれていたのだろ、幸運の女神を見逃す程に。ロレンツは、一つ溜息をついた。

「はぁ。もし、あそこに秘密の通路がなかったら、もし、一人で先行させなかったら、リーチは命を落とさずに済んだのかな?運に見離される様な事を、彼は何かしたのだろうか?」

ロレンツの目が沈んでゆく。

「おいおい、今は酒を楽しむ時間だろ?」

「その通り。リーチも今日で報われた」

フェリッポとベルチェが慰めながら、お前も何か言え、とばかりにフェスに視線を向けてくる。

「……運というのは気紛れなんです、判りますよね?幸運と不運なんて、ほんの些細な事で切り替わる。斃せたからこそあの魔獣との遭遇は幸運と喜んでいられるだけで、例えばあの時、私の足が痛みだして踏み込みが遅れていたりすれば、今頃私はここにいないでしょう。そのリーチさんも、ギルドの調査隊でさえ気付けなかった、あの横道に気付かなかった、という不運に見舞われてしまった、という事でしょう」

何か慰めになっていないな、と思いつつ、フェスは語り終えた。暫く黙って聞いていたロレンツだったが、やがて弱々しく微笑んだ。

「不運、か。誰にも過去を取り戻せない以上、人はそうやって区切りをつけ前進するしかないね。それは判っている、判ってはいるんだが」

「そうだ。弔いじゃないが今日で一区切りつけるべきなんだ。俺達は明日もギルドに行って依頼を受ける。そうやって生きてくんだしな」

「そう。私達は彼の分も生きてゆく」

フェリッポに頷きつつ、ベルチェが続く。吹っ切る様に数度、ロレンツは首を振るや晴れやかな笑顔を上げた。

「リーチの事で嘆いて見せるのは今ここまでにしよう。ところで、やはりこのパーティーには斥候役が必要なんだが、どうかな?」

身を乗り出しフェスとパミールを見比べるロレンツに。フェスの返答は変わらなかった。

「やはり、最初に言った通り、私は単独でやらせて貰います。何かあれば気軽に声を掛けて下さい。期待に応えられるかは判りませんが」

笑顔で言う。専属は難しいが、スポットでならまた一緒に行動するのも良いと思えた。

「そうかい。ルーチィ君は?」

フェスをチラリ、横目で見ると、パミールは口を開いた。

「まだまだ未熟でどこまでやれるか判りませんが。私で良いのなら」

「そうか。これからも頼むよ」

立ち上がりロレンツが差し出した右手を、弾かれた様に立ち上がったパミールは握った。それを目にした同業者達が、そこかしこから拍手を送ってくる。新生『黄の猟犬団』誕生の瞬間、という祝福されるべきタイミングだったのだが。


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