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第二章 ⅩⅢーⅢ

 二頭目のグレーター・グリズリーの報告を受けるや、万能職ギルドは慌しくなった。その死体を回収、処分する必要があるのだ。ダンジョン内ならいざ知らず、ダンジョン外で魔獣の死体を放置する事は許されなかった。直ちに回収班が編成され、荷馬車で出発したのだ。

「『魔獣が魔獣を生む』と教わりましたが、血肉を口にした動物が変化したって本当にあるんですか?」

「事例は幾つもあるね。狩りで魔獣の血を口にした猟犬が、翌日には変化していたとか。当然処分されたけれどね」

「そうなんですね?」

「大型は、後始末も厄介」

ぼやく様にベルチェ。

「処分は焼却ですか?」

フェスの問いにベルチェは頷いた。

「死体の状況等記録した後、地下の焼却炉で。火系列の魔術ですぐに灰」

万能職ギルドの建物には、大抵この手の焼却炉が併設されていた。魔獣の死体は、その量やサイズ、場所やパーティー構成等により適切に処理される事が求められているが、あれほどの巨体となればギルドに回収を依頼するのが普通なのだ。そこで一つ、万能職にとって重要なのは、戦利品はきちんと回収しておかなければ、ギルドはただ全てを灰にしてしまう、という事だった。一頭目の時には。ギルドで回収後時間を作ってもらい戦利品は回収しておいた。

「そういう所にも魔術は活用されている訳ですか。本当に浸透しているんですね。私も、ショーン=コールさんみたいに扱えたらいいなぁ。習得にそれほど時間は掛けられないと思いますが」

軽い口調でフェスが言う。それは以前から考えており、また今回改めて身に染みた事だ。元の世界で彼の生命を奪った武器は、彼には法を犯す事でしか手に出来ない物だったが、もしこちらの世界でそれに相当する様な武器を入手、少なくとも情報に接する事が出来れば。そういった暴力に対抗する手段として、己を守る為に必要ならば。しかし、少し酒が回ったのか、口が軽くなった感覚はあった。ベルチェの面から笑みが消え、まじまじと見詰めてくる。

「……本当に、そう思っている?」

静かな口調。どうやら怒らせてしまったかと、フェスは内心臍を嚙んだ。自分なら魔術くらい簡単に身に着く、とでも言いたげだと受け取られたか。

「いえ、確かに習得はしたいのですが。ただ、まぁ、それほど簡単には」

しかし、彼の懸念はどうやら違っていた様だった。

「もし本当に学びたいなら、私の様な落ち零れを目指していてはダメ。我が師の様な見識豊かな者から学ばなければ」

「?」

ロレンツとフェリッポは苦笑していた。フェスには彼女の言っている事がよく判らなかった。いや、落ち零れの意味は判っている。ただ、今日一日行動を共にして、その言葉の意味と目の前の魔術使い(マジック・ユーザー)が結びつかないのだ。

「私は、魔術師になりたい訳ではないんですが……その、落ち零れですか?」

「私の、アンジェリコ魔術学院での三年間の成績は、いつも落第ギリギリ。我が師に出会わずにいたら、今私はここにいない」

「そうだったんですか」

それでも卒業まで漕ぎ着けたのだから大したものだとフェスは思った。

「私は、魔道具なしでは三つしか無詠唱で魔術を行使出来ない。といって詠唱魔術は敷居が高くてろくに使えない。そんな私に、魔力運用による身体強化法と魔導石加工への道を拓いてくれた。出来の悪い私に寄り添い続けてくれた」

目頭に光るものが浮かんでいる。それを静かに拭う。

「その方は、余り良い環境にはない様だね」

ロレンツの一言に、ベルチェの表情が翳った。彼もある程度状況は聞かされている様だった。

「もし、たとえ一部でも魔術を学びたいなら、マリッツォに行き師を訪ねるべき。貴方が望む以上のものを与えてくれるかも」

真剣な眼差しで、ベルチェはフェスを見詰めてくる。それは、何かを求められている様にもフェスには思えた。

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