第二章 ⅩⅠーⅩⅡ
取り出された禍玉は、ソフトボール大ほどある球体だった。黄緑色をしていた。
「まだ若いんだよ。身体の成長は止まっても、禍玉はまだまだ成長の余地があるからね」
ロレンツが一くさり。それを手にしたベルチェは、静かに言った。
「固着」
簪の宝石が一つ、黄色く光る。禍玉は数瞬煌めくと元に戻った。
「これが保存処理ですか」
崩壊してゆく禍玉を魔導石に加工するまで、そうやって保存する必要があった。他にも保存用の魔道具があるらしいが高価で、お目にかかる機会は少ないという。こういった面でも魔術師は重宝されるのだ。
「これは君のものだ。ギルド推奨の店に持ち込めば、まぁ金貨四十枚は下らないだろう。魔導石に加工されればその倍には跳ね上がる」
「魔力留保量も術式付与余地量も一級。それだけの価値がある」
「凄い物ですねぇ」
ロレンツとベルチェ、そして意識を取り戻したパミールがフェスに手渡された禍玉を見詰めつつ言葉を交わす。パミールには一見大きな怪我はなかった。両腕も痣が出来ていたが問題ない様だった。むしろ木にぶつかった衝撃の方が大きかったのだろう。
「これは何に使われるんですかね?」
何気なく疑問を口にするフェスに。
「そう。例えば、我が師の発明した自動昇降機の、揚降機構の動力源など」
サラリ、ベルチェが言ってのける。メティス商会本店に設置されていたエレベータが思い起こされた。そういえば、エリーナが何か、言っていた様だった、と朧気に思い出す。
「え、貴女の先生があれを発明したのですか?」
「見た事がある?そう、今普及している方式の物は。他にも幾つか案はあったというが、実用化された物は恐らくそれだけ」
そう言うベルチェは少し自慢げだった。
「その先生は、今はどこに?」
「未だ学校にいる。アンジェリコ魔術学院。ナーダから西に行った、マリッツォにある」
二人の会話に、ロレンツが割って入った。
「すまないが、手伝ってくれないか?」
他の三人は、短剣を片手に魔獣の爪や牙を剥いでいた。討伐証明はもちろん、素材屋でも高く売れるのだ。どうやら美術品等に使用されるらしい。フェスも短剣を抜き作業に加わる。
「ギルドに提出する分以外はどうします?売却ですか?」
「そうだね。君が同意するなら、山分けはどうだろう?」
結果的に仕留めたのはフェスだが、ベルチェをはじめ『黄の猟犬団』の面々にも分け前があってしかるべきだろう。ロレンツの提案に、フェスは賛意を示した。作業が済むと、爪など戦利品や短剣等、それまでに魔獣の体液を拭ってきた布切れを、燃焼できれいさっぱり焼却する。残るは魔獣本体だったが。
「ギルドに報告して処理して貰おう」
ダンジョン内ならいざ知らず、このまま放置するのはまずい。埋めるなり焼却するなりする必要があるが、どちらも困難ならばギルドに回収して貰うのが一般的なのだ。こういった場合に備える意味でも、元万能職をギルドは多く職員として抱えているのだった。
「なるほど判りました。ではこれで撤収ですね?」
ロレンツにフェスが訊ねると。
「そうだね。今日私達は充分に働いた。今日の仕事はここまでにしよう」
何か吹っ切れた様な満面の笑みで、ロレンツはそう宣言したのだった。




