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第二章 ⅩⅠーⅩⅠ

 魔獣は、耳を聾さんばかりの咆哮を上げた。新たな登場人物に明らかに苛立ちと怒りを募らせている様子だった。しかし、十メートル余りの距離を取り両手で正眼に剣を構えるフェスが怯む事はない。魔獣の一挙手一投足、その全てを見切る事に集中している。一時の静寂が落ちてきた後、魔獣が、動いた。立った姿勢のまま、走り出した。長い両腕を振り上げる、その途中でフェスは動いた。一足跳びに距離を詰める。リーチを伸ばす為か前のめり気味となり腕を振り上げた時には、片手半剣の間合いに入っていた。

せいいっ!」

気合の一声と共に、走りの慣性、膂力、剣の重量、体幹の捻り、それらの全てを概ね切っ先十センチ余りに注入する感覚で振り下ろす。更に魔獣の慣性も加わり、その切っ先は見事魔獣の皮膚に食い込んだ。確かな手応えと共に右上から左下へ、踏み出した左足を左方へと滑らせつつ振り抜くや、即座に魔獣へと向き直り正眼に構え直した。魔獣は胸部から腹部にかけて緑色の体液を吹き出し、断末魔の咆哮を上げつつ彼を見失った為か両腕を振り上げたまま、どうっ、と彼の眼前で倒れ伏した。その一部始終を目撃していたベルチェは、呆然としていた。

「……一撃?」

まるで、剣の達人同士の果し合いに立ち会ったかの様な感覚だった。二撃目は不要、とばかりの渾身の一撃。強靭さを考えに入れるなら、もちろんそれが必要となればフェスの敗北はほぼ確定していただろう。それを恐れず、迷う事無く彼はやってのけたのだ。未だ息も荒いまま彼女は構えを解き、元の体形に戻る。一方、構えを解いたフェスの視界に、突然LMが現れた。

『通知。御目出とう御座います。甲家無心流の剣術レベルが一アップしました。レベル八になりました』

『え?レベルって、十までですよね?これでレベルアップして良いんですか?』

『回答。貴方はランク銀魔獣を一刀で葬ったのです。適切なレベル補正です』

『そういうものですか』

他者からはぼんやりしている様に見える彼を後目に、大きな物音に盾の陰から姿を現したロレンツとフェリッポは、右足と右腕を分担し、苦労して魔獣を仰向けにした。

「こいつは……肋骨叩き斬って心臓に達してるな。ったく、大した剛剣ぶりだぁ」

「見事な太刀筋。人なら真っ二つだろうね」

それがフェリッポとロレンツの評価だった。フェスは、未だ剣を手にしている事に気付いた。魔獣の体液に塗れたそれをそのまま返す訳にはゆかない。布切れを取り出し隅々まで奇麗に拭う。

「剣、お借りしました」

ロレンツに、捧げるようにして返す。ロレンツは上機嫌でそれを受け取り。

「君ほどの達人に使われたなら、この剣も本望だろうね」

柄を握った右手で一旦剣を掲げると、鞘に収める。

「ここまで使えるんなら、一本持ちゃ良いのにな」

フェリッポが、不思議そうに言う。葛藤を抱えていたフェスは苦笑した。

「……考えておきます」

そんな、男三人で和気藹々とやっているところで。

「禍玉を回収して。処理する」

ベルチェの冷ややかな声が割って入った。そうそう、とばかりに三人は動き出したのだった。



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