第二章 ⅩⅠーⅧ
結果、フェスは横道を三本、発見出来た。それぞれが別の通路間を繋いでいた。それらはゴブリン専用のショートカットであり、また避難所でもあった(より大型の魔獣は侵入不可能だろう)。ベルチェは魔力の残量に気を配りながら、一本目と同様に魔術を行使した。呼吸器は外気取入れのオンオフ機能があり、オンにすると外気を浄化して取り込み、オフにすると魔術により空気を生成する(ただし時間的制約がある)。先程はそれを忘れオンにしたままだったため、浄化されているとはいえ悪臭を取り込んでしまった。今度はオフに切り替えた。魔導石は三つ、回収していた。
「とりあえず、ここまでにしよう。この情報を持ち帰らなければ」
ロレンツの一言で、一同は撤収する事になった。変わらぬ隊列で入口を目指す。
「今回は禍玉の回収はしなかったが、状況が状況だ、勘弁して欲しい」
禍玉とは、魔獣のみが体内に持つ魔力の保存器官だった。体外に取り出すと徐々に崩壊してゆくが、現在では保存、加工により魔導石として魔力の保存や注入、術式の付与が可能となっていると、ギルドの講義で説明されたのをフェスは思い出していた。ベルチェの鉄杖や簪等に嵌められているのも小粒の魔導石なのだ。
「……あの魔導石は、調べてみる必要がある。魔術師協会の公開情報には、恐らくない加工法が用いられている」
「見ただけで判るのか?さすが魔道具作りの才人だ!」
ベルチェをロレンツが軽い調子でからかうと。
「他に取り柄がないだけ」
思いのほか暗い調子に、ロレンツはバツが悪そうな表情を浮かべた。
「……いや、済まない」
ロレンツの謝罪に、ベルチェは返答しなかった。微妙な空気が流れるのを嫌ったか、フェスが口を開いた。
「あの、斃したゴブリンの数とか、数えてないんですが」
フェスの問いに、ロレンツは少し安堵した様な表情と共に振り向き答えた。
「ああ、新種でもいない限り相当数、という事で良いよ、ダンジョン内ではね。討伐依頼を受けている訳でもないのだから」
「新種ですか?一見してそれらしいのに心当たりはありませんね」
記憶を再生しながら答えると。
「いたらいたでそれは問題だろうしね」
「もしいたなら、かなり頭が良いんでしょうね」
「魔導石のこと?幻影魔術のこと?」
ベルチェの問いに。
「私は魔術に関しては完全な素人です。ただ、あの横道を掘る為には、測量技術や掘削技術が必須ですよね?各通路は同一平面上にある訳ではないですし、不規則な昇降があります。今、私達が歩いている様な。その、二本の通路の一点同士を正確に結ぶには、厳密な高低差や方角が判らないと不可能でしょう。もちろんそれが判っても、実際に横道を掘れなければ無意味ですし」
たとえ掘れたとしても、地層によって崩落や浸水の危険性もあるだろう。暫く考えた後、ベルチェが答えた。
「魔術を駆使して、不可能ではないかも。少なくとも、私には無理。たとえ賢くなっても、ゴブリンに可能とはとても思えない」
彼女の言葉を最後に、暫くは静寂の時が流れた。
「……見えて来ました。入口です」
パミールが一向に告げる。魔術の光を消し、ダンジョンを出た。全員が呼吸器を外し、外気を思う存分吸い込む。ダンジョン内での活動は三時間程か、日はまだ高い。と、森を抜け草原へと吹く、一行にとっては心地よい風が木々をざわめかせた。しかし、それはある禍々しき存在の注意を惹く事ともなったのだった。




