第二章 ⅩⅠーⅤ
先頭のゴブリンは、右手の棍棒を振り上げ奇声を上げつつ驚異的な跳躍力を見せ、頭上から飛び掛かって来た。二体がそれに続き左右から来る。広い通路とはいえ、それだけで逃げ道はなくなる。更には二体がその背後で待機していたのだ、人間一人屠るぐらい訳はない、筈だった。フェスは左手で一体目の右腕を掴んで止めると右手の短剣をその首へと繰り出した。幼稚園児程度の体重かと感じた。喉仏の辺りに短剣を突き刺したまま、右腕を掴んだままの左手とで振りかぶり、待機している魔獣達に届けとばかり放り投げた。短剣が抜け、緑色の軌跡を描く。それには残るゴブリン達の気を惹きつける目的があった。実際、前に出た二体の視線がそれを追い、彼から注意が外れる。それを見逃す事はなく、短剣が左手ゴブリンの首を切り裂く、その勢いのまま右手ゴブリンの首をも短剣が襲う。リーチの長さもあって、彼には斃れ伏すゴブリン達の返り血も届かない。全ては三十秒と掛かっているか、の攻防だった。構え直すフェスに、残る二体は……撤退を選択した。
「す、凄ぃ」
短剣を投げる体勢のまま、パミールが小さく呟く。奇声を耳にして振り返ると、フェスは既に一体目を仕留めていた。それでは彼に迫りつつあったゴブリン達のどちらかに投擲を、と思った次の瞬間には、そちらも終わっていたのだ。それほど迷いなく、淀みなくフェスは戦闘を終了したのだった。そんなパミールを後目に、構えを解いたフェスは短剣を一振りすると、腰に下げた布袋から布切れを取り出して丁寧に拭い、鞘に収めるや布切れを別の布袋に突っ込み、今度は筆記用具を取り出し左手で地図を取り上げると、何かを探す様に右手人差し指を地図上に滑らせ、そして何かを記入し始めた。やがて、背後が静かになった。
「……何をしているのかな?」
剣の血を布切れで拭い鞘に収めたロレンツが、困惑顔で近付いて来る。
「……どうやら、お仲間が亡くなった理由が判りました」
言って、フェスが地図を見せる。そこには既知の通路を繋ぐ横道が一本、書き加えられていたのだった。




