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第二章 ⅣーⅢ

 実技試験の試験官が見つかったのですぐに試験を受けられる、と職員は言った。しかし、その前にまずはプロフィール表の記入が必要だった。氏名や年齢等は当然スラスラと記入出来たが、『出身地』のところで手が止まってしまう。西の大陸、という事になっているが、地名など判らない。下手に適当な事を記入して、極めて低確率そうだが迂闊にも嘘だと判明したら面倒だろう。

「何か、支障がありますか?でしたら空白でも結構ですが」

彼の手元を一瞥し、探る様な目つきで職員が訊ねてくる。登録者の中には、出身地を明らかに出来ない、しづらい『ワケあり』もいるのか、と、ふと、エリーナから渡された手紙を思い出した。ポシェットから、四つ折りの書類を取り出した。

「すいません、お世話になった方から、これを渡す様に、と」

職員に差し出すと、「お預りします」と呟く様に言いつつ書類を展開し一読する。その表情が驚愕から真剣、そして僅かばかりの憐憫へと変わってゆく。読了し、元に戻すとフェスに返した。

「失礼しました。メティス商会に縁がおありでしたか。現状、西の大陸とは往来がありませんので、出身地は『西の大陸』のみで結構です。ところで……格闘術を習得していらっしゃいますか?」

甲家無心流の事がエリーナの書類に書いてあったのだ。

「ええ、まぁ」

「そうですか。万能職のうち、銅ランク以上の方々には人のほか魔獣という、人ならざる形態の獰猛な害獣の討伐依頼もご在ます。またそうでなくとも、いつそれと遭遇するか判らないのが万能職です。単なる格闘術のみでは、その、対処に苦慮される事にもなるかと」

「いえ、もちろん武器も使います。ただ単に、一番得意な形式、というだけで」

昨日は少し片手剣を使用したが、思った以上に扱える手応えはあった。

「そうですか。では実技試験で確認させて頂きます」

言って、少し挑発的な笑みを職員は浮かべた。残りの項目を手早く記入すると(『戦闘技術』の項目には。ただ『総合武術』とのみ記入した)、受け取った職員は手早く内容を確認し、一つ頷くと背後の棚の『登録申込』というプレートの貼られた書類箱に入れた。カウンターに戻ると何かを書きつけている様だったが、フェスにはチラリ、と内容が見えた。それはノートで日付の下に、一からふられた番号の横に整理番号があり、それに続けて氏名、時刻、受付内容を記入していたのだった。時刻は九時を少々回ったところだ。彼からは見えなかったが、正確な時計があるのかと少々驚いた(職員はカウンターテーブルの下をチラチラ見ていた)。そういえば、と、エリーナの事務机にも、置時計らしいのが置いてあった様な気がした。どうやって時間を合わせるのか?何か、魔術的なものか?しかし、と、元の世界にも中世には既に精巧な機械時計があったのを思い出した。そんな事々を考えているうちに、職員は記入を終えカウンターを離れた。脇のスウィングドアを通り玄関正面の壁に歩み寄ると、とある扉を開け彼を手招きした。近付いて行くと下り階段があるのが見えた。職員は先に彼にその階段を下りさせると、扉を閉め後に続いたのだった。


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