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第一章 ⅩーⅣ

 フェスの肉体は頗る快調だった。篤の時よりむしろ好調でさえあった。坂道を軽快に下っている時も、まるで飛ぶ様な感覚で、汗一つかかない。歩けばたっぷり一時間は掛かるだろう距離を、十五分余り(あくまで体感時間だが)で走り抜け。丁字路が見えてきた所で、彼は右側の木立に入った。盗賊達の背後から状況を確認する為に。木立の中を進み、丘の上が見渡せる場所まで移動する。木の陰に隠れる様にして上から見る限り、襲撃を受けた馬車は五台、街道上で戦う護衛達と盗賊の人数は十数名で、ほぼ同数だった。最後尾では、高級そうな造りの箱馬車の横で乗馬服姿の女性が大柄の男性相手に剣で応戦しているのが見て取れた。護衛達は丘の上から三人の男達に矢を射掛けられて動きを制約され、また負傷者もありかなり不利な状況なのが把握出来た。今、一人の射手が女性の方を向き矢を取ろうとしていた。

「まずいですね」

格好等から、女性が車列の責任者だろうとは容易に想像がついた。数度、独自の深呼吸を行う。あちらの世界でも僅かに感じられた、体の中心から熱が爆ぜるあの感覚が沸き起こる。しかし、あちらとは比較にならないほど、それは顕著だった。頭へ、手足へ、蠟燭と化した体が今にも燃え上がるのではないか、と思われる程に。これが魔力か、と彼は再認識した。準備は整った。今一度眼下を見遣り、彼は跳んでいた。数メートルを一気に跳び下り、今矢をつがえようとしている男の数メートル背後に降り立つ。突然の音に振り返った男へ。

「いけませんよ、通行人を襲うなんて」

笑顔と共に言い放つ。男は……暫し唖然のあと、当然、矢を弓につがえ、照準を彼に変えた。が、矢が放たれる事はなかった。一足跳びに至近距離へと接近したフェスが、弓と矢を左手で握って固定しつつ左へと射線を外す。右手では掌底を、最高速で男の顎を擦る様に繰り出していた。脳を揺すられ、男は一瞬で意識を刈り取られた。弓矢をもぎ取り、倒れる男を躱す。その時には、残る二人も事態に気付いていた。弓を捨てる判断を迅速に行い、刃渡り二十センチ程の短剣を抜きにかかる。しかしその隙をフェスが見逃す事はなく。弓矢を投げ捨てると、やはり一足跳びに距離を詰めまだ構えかけの右手を左手で上から制しつつ、今度は右手の拳槌打ちを男の左耳に見舞う。その衝撃で三半規管が狂い、やはり気絶する。技のキレも元の世界以上の様だった。倒れ掛かる男を、その右手を掴んだままの左手を引き左側に退けると、三人目が右手の短剣を腰だめに突っ込んで来るのが判った。機先を制すべし、との判断だろう。三人とも、それなりに場数は踏んでいる様だったが。フェスは中段蹴りで数メートルを吹き飛ばした。岩に背中をしたたか打ち付け、三人目も気絶した。やはりこの肉体は少々桁外れの力を秘めている様だったが、その地力に更に上乗せされた彼の宿す魔力による身体強化の賜物でもある事を、彼は実感出来た。この世界における初めての実戦としては、まずまず満足のいく結果だった。

「ふむ、なかなかに好調ですね」

両腕を回し、足を踏み鳴らし、自分がどこまでやれるか確認したい気持ちが膨れ上がって来るのを、再び深呼吸で落ち着けた。慌てるな、軽はずみな行動で人は簡単に死んでしまうのだ。その事を常に肝に銘じておけ。ふと地面を見ると、二本の短剣が落ちていたので拾う事にした。今まで十キロほどあるリュックを背負ったまま戦っていたが、全く気にはならなかった。奇襲は成功裏に終わったが、今度はそうはいかないだろう。リュックを下ろし、戦利品たる短剣をしまう。ステータスリストにもあった通り、彼は武器も使う。しかし。今は一から、つまり素手から確認してゆかねばならない。今までのところ充分やれる様だった。街道の方を見遣り、一つ頷くと一、二の三、で宙に身を躍らせた。

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