プロローグ Ⅱ
自らの手にした拳銃が篤を打ち倒した時、二十代半ばのリーダーはかつてないほどの高揚感に包まれた。その凶器の出どころは、彼の叔父の、秘密の隠し場所だった。かつて酒に酔い上機嫌で話してくれたそこから、彼は勝手に失敬したのだ。当然、というべきか叔父は反社の構成員で小さい頃から彼を可愛がり、甘やかしてきた。昔から周囲の叔父に対する態度を見て育ったリーダーは、自分が大きな力の近くいるという意識を持ち、それを自分のものと錯覚していった。今回にしても、先々の事にまで思考を巡らせる事なく、ただ自慢のため持ち歩いていた、力の象徴たる銃器を試す好機、程度の動機で篤に銃口を向けたのだ。そうして得られた高揚感は、しかし長続きしなかった。恐らくは奇声をあげて囃し立てた仲間達は、みな気絶しているのだ。聴こえてくるのは、モノにしてやろうとしていた女性の泣き声と、打ち倒された弱者を気遣う声だけ。次第に怒りが取って代わってゆく。おい、そんな弱っちい野郎なんぞになに土下座してやがるんだ。それより俺様を讃えやがれ!と、完全アウトな方法を用いておきながら心の中で咆えた。それが現実には、天井に向け放たれた銃弾となったのだ。この時こそが、恐らく彼の人生にとっての絶頂期だったのだ。それより間もなく組み伏せられる事になろうとは、愚かゆえに夢想だにしていなかったのだった。
リーダにとっての不運は、比較的近くに警邏中の警官達がいた事だったろう。住宅街の中の廃工場は、元来一帯が町工場だったのが時の流れとともに廃業等で住宅が建ち、現状の様になってポツリ取り残されたのを、権利関係のごたごた等で廃業後何年間も手付かずになっていたものだった。それをよい事に、素行不良な若者達が出入りしている、という情報を得た警察当局は、大いに留意していたのだった。だからこそ、最初の銃声が聞こえた時も即座に思い至ったのだった。パトカーの運転席と助手席でアイコンタクトを取った警官達は、即座に現場へと急行したのだった。