第一章 ⅩーⅡ
ステータス画面を一通り眺め、フェスは心の中で呟いた。
『この基本パラメタについて、説明をお願いします』
ピクトグラムは一つ頷き、口を開いた。
『回答。各パラメタは貴方の持つ様々な要素を抽出し、判りやすく数値で表現したものです。上からHP、MP、VIT、AGI、DEX、INT、PG、MG、VIC、とありますが、以下一つずつ説明します。HPは生命力で、0になると躯体は全機能を停止します。MPは魔力で、魔術を使用するほか特定状況下で『身体能力強化』発現となった時、魔力が消費されると減少します。VITは体力で、重い装備を用いたり物を持ったり、あるいは外力を受けたり、といった物理的負荷にどの程度まで耐えられるか、を示します。これはHPと関連しており、この値が大きいほど負荷によるHPの減少は遅くなります。AGIは素早さを示します。VITと物理的負荷との関係で変化します。現状で最大値となっています。DEXは器用さを示します。武器や道具等の扱い易さを示します。使用する道具等により変化し、習熟により上昇します。現状は素手であり基準値です。INTは明晰さを示します。記憶力や理解力、想像力等を勘案した値で、魔術行使等に影響を与えます。PG、MG、は物理防御力、魔術防御力を示します。PGは打たれ強さ、MGは魔術への抵抗力とお考え下さい。VICは邪悪さを示します。貴方の行動により変化します。各々の数値は、新生児を一としたもので、VICを除き高めに評価しています』
なるほど、説明通りであればVITで千二百少々、AGIで千前後、DEXでは現状八百余り、INTが九百少々、PGで千百、MGで八百余り、それに比べVICは百程度となっている。
『なるほど、かなりハイスペックな肉体を与えられたのですね』
『回答。貴方の魂を収容するにふさわしい躯体となっているだけです』
『そう、なのですか?』
フェスには、その意味がよく判らなかった。またHP、MPというパラメタも今一つ飲み込み辛い。RPG等ではお馴染みのパラメタなのだが、その数値の根拠が判然としないのだ。
『このHP、MPですが。四千と三千を超えるこの数値の根拠は何でしょうか?』
新生児を一として、その四千倍を超える生命力とは?年齢は二十三の様だが、それほどの差があるとは思えなかった。せいぜい数百倍、といったところか。
『回答。HPに関しては、この躯体の耐久力であり生成時に初期値として設定されたものです。MPに関しては元の世界における貴方の活動に依拠しています。貴方は確かに涵養していたのです』
その回答に、フェスは納得しかねた。
『いえ。元の世界では、私は魔力など使用していませんが。魔術など存在していませんでしたし』
『回答、継続。MPに関しては、元の世界における貴方の格闘術の鍛錬による育成を加味してのものです。貴方は鍛錬の中で呼吸法や精神統一、組手等を通じ自然と涵養していたのです。ただそれに気付かず、あるいはそれを魔力と認識していなかっただけで』
確かに、魔術のない世界ではその存在に気付く事は無かったろう。ただ、確かに呼吸法の実践一つで体内に熱が爆ぜる様な感覚があったのは確かで、今から考えればあれが魔力だったのだろうか。
『質問。先に進んで宜しいですか?』
『……ええ、そうですね。お願いします』
もやっ、とするものを感じながら、とりあえず先に進む事にする。
『説明。スキルの話に移ります。現状体得しているのは暗視、言語変換、身体強化、及び特技。甲家無心流の括りとして体得している武術を評価させて頂きました』
リストには『甲家無心流』の見出しで囲われた『剣術:Lv7 格闘術:LvMAX 槍術:Lv4 投擲術:Lv2』という記述が。
『この甲家無心流のレベルは、どういう基準で設定されていますか?』
『回答。一応の目安と考えて下さい。この世界における一般的な武術の習得者を参考としています』
『そうですか……ただ、一つ。格闘術がレベルマックス、というのはどうなのでしょう。私はまだまだ未熟者なのですが』
『回答。貴方の前の世界での、最後の戦闘を参照しこうしています。これは貴方の上限を規定するものでなく、この世界で同様の格闘術を習得した者を基準として決定したものです』
つまり、不良相手に大立ち回り出来る程度で、格闘術のマスタークラスと見做される、という事だろうか?だとすれば、あまりにこの世界の格闘術は弱すぎるのではないか?やはり武器や魔術を用いて戦うのが普通で、格闘術は廃れているのか?そもそも自分は銃器による射撃、という遠隔攻撃で絶命し今ここに到るのであり、弓などはもとより魔術が銃器に相当するものだとすれば、廃れるのも止むを得ないのだろう。
『……この世界には、魔術というものが存在する様なのですが、どの様なものなのでしょうか?』
『回答。この世界の魔術は戦闘に限らず医療や土木建築等のほか社会生活にも浸透しています。ただしものにより高価につく場合があるので使用可能な人物は限定されます。より詳細はご自身で調べて下さい』
『はいはい、判りました。それほど私の新しい人生を充実したものにしたい様ですね?』
それは半ば皮肉交じりだったが。
『それが私の役割の一つですので』
大真面目に返され、思わず吹き出してしまった。
『質問。どうしましたか?』
笑いを収めるのに一苦労しながら、フェスは答えた。
『いえいえ、何でもありませんよ』
笑いが収まり呼吸を整えると、更にリストを読み進めてゆく。また線が引かれ、『固有技能』と見出しにある。その下の一行に、フェスは困惑した。
『この『地図追跡Lv1』とは何ですか?』
これこそ、神らしき存在が約束したスキルだったのだ。