第四章 ⅥーⅡ
一時会話が途切れ、ベルチェに視線を移したフェスはある事を思い出した。
「ああ、そういえば。ショーン=コールさんに返す物が」
ポシェットから布袋を取り出し、テーブル上で彼女へと押しやった。
「これは」
「預かっていた魔導石です。中に所見、というか覚書が入っているそうです」
「概要は、聞いた?」
布袋の口を開け、メモ書きを取り出すベルチェ。便箋二枚分はあった。
「はい。彼女によれば、人類種の技術ではない可能性が高い、と。異様に魔力蓄積量と付与可能術式数が多いと思われるそうで。だから通常の術式付与装置では危険と見做されるとか」
フェス自身、伝言の半分も理解出来ていなかった。しかし、それを聞きつつメモを読み、ベルチェはしきりに頷いていた。
「そう……私にもっと調べろ、という宿題。やはり先生にはかなわない」
懐かしい、優しい記憶に触れた様な、穏やかな微笑が漏れる。モナ・リザか、とフェスは心の中で呟いた。と、足音が近付いてくるのに気付く。
「ああ、来ていたのかいウラルク君。まずは昇級おめでとう」
話を終えテーブルに戻って来たロレンツは、フェリッポらと軽く視線を交わすとフェスに向かい合い言った。このタイミングを待っていたのか、今更ながらベルチェら三人も祝いの言葉を述べた。
「有難う御座います。いやぁ、ちょっと早過ぎる、と言ったんですけれどね」
「いや、こちらにとっても丁度良い頃合いだったよ。青銅なら一人でも紫一ダンジョンには挑戦可能だし。まぁ、あくまで制度上の事ではあるけれどね。パーティーなら、ランクによって紫二、三、つまり紫ランクのダンジョンなら大抵は同行出来る。もちろん無理は大敵だけれど。君も判っている通り、『紫一洞窟』ダンジョンはおかしな事になっている。明確に悪意ある者が改変しているからね。今回の一件も、その一環である可能性がある。そこで、ギルドとしてもランク変更を考えなければならなくなった様だ。大暴走の一件も考え併せて職員と共に調査をする事になった。安全性を優先して、君にも参加して欲しいんだが」
フェスは笑顔で頷いた。
「それは構いません。乗り掛かった船、というか」
言って、『黄の猟犬団』がみな頭上に『?』を浮かべた表情をしているのに、フェスは気付いた。
「何で、船が出て来るんだい?この付近には川もないが」
訊ねてくるロレンツ。どうやらフェスの言い回しの意味が理解出来ないらしい。
「ああ、いえ。私の出身地の言い回しで。私もその悪意に触れているので同行します、という」
「そうか。そんな言い方があるんだね」
ロレンツは元の爽やかな笑顔に戻った。
「それで、今からですか?」
「ああ。準備を調えて、一時間後にはここに集合してくれ」
「判りました」
「それじゃ、頼んだよ」
テーブルから一斉に立ち上がり、五人はギルドを後にしたのだった。