第二部 第二章
「そもそもだけど、貴方の守護精霊とやらは何も言わないの? 」
優がしつこく突っ込んできた。
「ひい爺ちゃんだからなぁ」
「そのひい爺ちゃんだからって何よ? 」
「いやいやトンパチだったって言うし」
「何、そのトンパチって? 」
「相撲とかプロレスで使う用語で、目先の分からない人って言うか破天荒な人の事を言うんだそうな」
「何なのよ、それ? 」
「ヤクザみたいな事をしてたかと思えば、海外で傭兵やったりして、まあ碌なことしてない人で」
『そんな人が貴方の守護精霊なんですか? 』
聖女さんが動揺して聞いて来た。
「そう言ってたもんね」
「どんな守護精霊なのよ! 」
「いや、俺が選んだわけじゃ無いし」
『おいおい、ひ孫の為に一肌脱ごうとやって来たひい爺ちゃんに何て事を言いやがる』
何時ものごとく幻影と共にひい爺ちゃんが現れた。
「いや、それならひ孫の為に戦い方を教えなさいよ」
『教えたじゃねぇか』
「鈍器で背後から殴るのが? 」
『慣れてない剣を使うより遥かに戦えるだろうに』
「勇者の力を得てるんでしょうが、こいつは」
『現実の戦いなんて、道具を選ばないであるもんで戦うもんだぞ』
「いや、喧嘩じゃ無いのよ? 」
『いや、実戦なんてそんなもんだ。剣道だって実戦に近い江戸時代だと足で蹴ったり殴ったりだったろ? 』
「じゃあ、何か教えたげてよ」
優がそう頼み込んだ。
『剣をだな。こう腰に固定して走って体当たりするようにして相手の腹を……』
「それ、ヤクザのやり方じゃない」
『何だ、良く知ってんな』
そうひい爺ちゃんが笑った。
「いや、そう言う話じゃ無いでしょうがっ! 」
優がさらに激高した。
『いやいや、案外相手に刺さらないもんだしな。拳銃だってそうだろ? ヤクザもんだって一メートル先の畳にも当てれないのが普通だ。実際、バンバン撃ってるニューヨークの警察のデータでも5メートル先の人間に二割も当てれないんだぞ? ニメートル先だって三割くらいだ。結局、ビビるし、中々実際には当たらないんだ。それなら体当たりで刃物を固定すると言うのは非常に優れたやり方だろ』
『いや、大量の魔物にいちいちそんなのやってたら、流石に助かんないと思いますけどね』
ひい爺ちゃんの話に聖女様が呆れて突っ込んできた。
『そん時はまた状況見て忠告してやるさ』
そうひい爺ちゃんが笑って消えた。
「あああっ! 何もしないで消えたっ! 」
優がそれで激高した。
「いや、まあ、そんな人だったとは聞いてたんだけどね。人の言う事聞かない人らしいし」
俺が苦笑した。
トンパチとはそういう事だ。
爺ちゃんが相撲とか好きでひい爺ちゃんの事は昔からトンパチトンパチと言ってた。
良く似てるけど、ひい爺ちゃんと爺ちゃんは全く性格が違ったのだが。
『本当に大丈夫なのかな? 』
今度は聖女さんが不安からか泣きそうな声になっていた。
現実って厳しい。
そもそも、俺のようなモブに勇者が転移しようとした時点で無茶苦茶だろうに。