第二部 プロローグ
「何だよ、学校の近くにあるどぶ川になんかあるのかよ」
そうガラの悪そうな同級生がいつも彼らにからかわれて虐められている野宮蒼に不満そうに話す。
彼の名前は河村陸だった。
大成高校は進学校だが、少子化で生徒数の減ったものの学校経営の事もあり、受け入れ数をあまり減らさなかったので、結果として昔なら入れないような生徒が入るようになった。
それが彩人などであった。
この河村陸も彩人ほどでは無いが性格が悪く、金を貸してくれと同級生から借りて返さない悪い癖があった。
今回もお金を貸してくれるように蒼に頼んで、蒼から警察がいない学校の近くのどぶ川に呼び出されたのだ。
そのどぶ川は海が近いせいか川幅も広く、かなり水深も深く水の色も汚い。
「いや、君に用がある人がいるんだ」
「はあ? 馬鹿じゃねぇの? それよりも金を持ってきたのかよ。今日貸してくれるって言ってたよな」
そう陸がムッとしたように聞いた。
勿論、蒼が貸しても帰ってこないお金だ。
蒼は同級生の財布だった。
最初は蒼がぼっちだったので友達が欲しくて、幸い蒼の家が金持ちだったので、いろいろと奢ったりしていた。
だが、それは結局、一緒に遊んで奢るのではなく、単にお金を貸すだけに変わっていた。
ボッチはボッチのままだったのだ。
「警察がうろうろしてるから、わざわざ高校を出て、お前が言うとおりに、ここまで来たんだぞ? 」
そう陸が蒼に不平を言った。
「ああ、ここにあるよ」
そう蒼がグチグチ言われて、おずおずと財布から三万円を出した。
「ああ、サンキュっ。必ず返すから」
そうチャラい同級生がその三万円に手を伸ばした。
その瞬間にどぶ川から巨大なものがジャンプして、そのチャラい同級生を咥えた。
それは巨大なワニだった。
海水と淡水が混ざったところでも生活できるナイルワニ。
最近の温暖化で北上して来たのかもしれない。
彼らは海を渡る。
ナイルワニは最大で六メートルを超える。
さらに瞬発力が凄く、ジャンプして、船の上の人間を咥えて引きずり込む事が出来た。
陸は頭を咥えられてどぶ川の中に沈んだ。
「終わったかい? 」
「ああ、終わったよ」
そう陸の友達の堀治樹が姿を現した。
蒼はそれに笑って答えた。
どぶ川に一瞬の血が拡がるが、しばらくすると川から裸の陸が上がって来た。
「誰も見て無いよね」
「それは大丈夫だ」
裸の陸が心配そうに周りを見たが蒼がそう笑った。
治樹が鞄から着替えを出して、上がって来た陸に服を渡す。
「おかげで、身体が出来たよ」
そう陸が笑った。
「いやいや、これでやっと友達だね」
蒼が嬉しそうに笑う。
陸が治樹が持ってきた大成高校の制服を着終わる。
「おい、俺達の身体も頼むよ」
「頼むよ、親友」
そうどぶ川の海面にいくつものナイルワニの姿が現れて、そう蒼に催促した。
「分かってるよ。必ず準備するから」
「ありがとう、友達」
「やっぱり親友は持つべきだな」
ワニ達がそう口々に話す。
「で、勇者はここなのか? 」
陸が聞いた。
「ああ、間違いない。コウモリ野郎のなりそこないが殺された」
そう治樹が笑った。
「まだ、数を集めないと難しいのでは? 」
そう蒼が心配した。
「分かってるよ親友。我々だけでなく、皆が今、この近辺に集結を始めている」
そう陸が笑った。
まだ慣れていないのか、ぎごちない笑いだった。
それを見て満足そうに蒼は笑った。