第一部 エピローグ
「ふふふふふふ、わしは幻影では無い。お前のひい爺ちゃんだ。ひ孫のピンチにお前を助けるために現れたのだ」
そうひい爺ちゃんが邪悪ににっと笑った。
『まさか勇者につくはずの守護精霊? しかし、あれは神とか高位精霊が付くはずなんだけど……』
何故か、優の中の聖女の声が動揺で震えていた。
ひい爺ちゃんの笑う顔が邪悪すぎて、とても正しい方側に見えないのだと思う。
それとは別で、俺もさっきまでの興奮状態から醒めて、急速に我に返っていた。
「人を殺してしまった……」
その事が俺を追い詰める。
いきなり吐いた。
「大丈夫? 」
初めて優が心配そうに俺を見た。
多分、もう一人亡くなっているはずだから、優も同じように何かしているのかもしれない。
「ふふふふふふ最初はそんなものじゃ。お前は今、男になったのじゃ」
ひい爺ちゃんの言葉が俺の中で空回りした。
そういや、ひい爺ちゃんは若い頃からヤクザと平気で喧嘩するだけでなく、実際に海外で戦争に参加したりとか噂があったが、この不快感の経験があるのだろうか。
「ひい爺ちゃん」
「わかっている。話はお前の中に入りそこなった勇者の人格の方から聞いた」
「え? 」
『え? 』
優と優の中に居る聖女が同時に呆気に取られた顔をした。
やはり、勇者の人格は俺に入りそこなっているのか?
「どういう事? 」
俺がそう聞いた。
目の前の彩人の死体を見て吐き気が止まらない中で、ひい爺ちゃんの幻影に聞いた。
「わしがお前に助言を与えよう。必ず勝てるようにしてやる」
そうひい爺ちゃんが邪悪さ丸出しで笑った。
『ええ? 』
「ええ? 」
優と優の中に居る聖女が同時に凄い違和感を感じて震えていた。
「とりあえず、逃げろ。警察が騒ぎを聞いて来るぞ」
そうひい爺ちゃんが声を潜めた。
『優。早く転移魔法を』
「えええ? また? 本当に習ったばかりなんだけど」
そう優の中の聖女に言われて優が愚痴った。
だが、激しい駆け上がって来る足音を聞いて、慌てて優が転移魔法を使った。
意味不明な言葉の呪文を使って、俺と優は俺の家の庭に現れた。
そして、俺は初めての転移魔法と人を殺した事から、またゲロを吐いた。
すでに、ひいお爺ちゃんの幻影は姿を消していた。
とても、こんな話にはついていけない。
花瓶に残った指紋を拭き忘れている事も思い出して、そういう心配で頭が一杯になって、俺はゲロの海に気を失って倒れて沈んだ。
次の日の朝、母親に久しぶりに優ちゃんが来たのねって起きた所で声を掛けられたが頭は真っ白だった。
そして、学校での話を母親に聞いたら、彩人は旧校舎の天井が古さからか崩れて潰れたって事になっていて、今更ながらに驚いた。
本当に俺が殺したとしても事件にならないのだ。
そう思った時に潰した彩人の頭を思い出して、もう一度吐いた。