第一部 第四章
激しく蹴られて、古い黒板に叩きつけられたせいだろうか。
昔々のような夢を見た。
爺ちゃん? と祭りに行っているような夢だ。
爺ちゃんはガラが悪かったせいか、年寄なのに何故かガラの悪いおっさんに喧嘩を売られていた。
その日の相手は見るからにやばそうな三十くらいのテキヤみたいなおっさんだった。
「おどりゃ、なめとんのかっ! 」
テキヤのおっちゃんが叫ぶ。
まるで昭和だ。
田舎って怖い。
「まあなんだ。ここじゃ人の目もあるし、向こうへ行くか? 」
そう爺ちゃんが笑った。
「ええわ。あちらの駐車場に行くかっ」
そうガラの悪いおっさんが背中を向けて奥の人気のない暗い駐車場に爺ちゃんと向かった。
爺ちゃんは奥の駐車場に入る寸前で下駄を脱いでテキヤの後頭部を殴った。
相手が振り向いたら執拗に顔面の目の辺りを殴り続ける。
「ええか弘幸っ! 武器なんてなんでもいいんじゃ! 大切なのは相手を油断させて、背後から鈍器でも何でも殴れば良いんじゃ! まずは目じゃ! 目を徹底期に攻撃して潰してしまえ! 見えない奴は殴り放題じゃぞ? 」
「いやいや、爺ちゃんっ! 相手が死んだらどうすんの? 」
俺が慌てて、たまらず夢の中で叫んだ。
「なあに、そうなったらボケたふりをするがな」
そう爺ちゃんが笑った。
そこで目が覚めた。
気が付いたら血を吐いて気絶していたらしく俺がせき込みながら身体を起こした。
見たら優が悲鳴を上げて彩人から逃げていた。
「爺ちゃん、分かったよ」
俺がそう呟いて、彩人を見た。
「おいおい、復活か? 」
そう彩人が笑って俺を見た。
俺が剣を構えなおす。
だが、手が滑って剣が転がった。
彩人の目の前を通り過ぎて、彩人の向こう側に剣が転がる。
「ちょっとぉぉぉ! 」
優が襲われてて怖かったのか涙を流して剣を落とした俺を見て激高していた。
「おいおい、勇者が剣を落とすかぁ? 」
彩人が油断しきって俺に背を向けて剣を取ろうとした。
勿論、彩人を油断させる為に俺はわざと剣を落として転がしたのだ。
奴がそれを見て、剣を拾うように。
そしてその隙の瞬間に俺が目の前にある分厚いガラス製の花瓶を掴んで、彩人の後頭部に一撃した。
これが勇者の力なのか、信じがたい膂力で花瓶を叩きつけていく。
勿論、こちらを見た瞬間に顔面の目の辺りに叩きつけるように掴んだ花瓶で殴り続けた。
『まさか、技能は移行出来なかったけど、いざと言う時の勇者の瞬発力と膂力は発現出来てると言うの? 』
優の中から声が響いた。
「いや、鈍器で戦う勇者ってありなの? 」
優が金切声で叫んだ。
だが、俺は彩人の顔が潰れてぐちゃぐちゃに粉砕されても花瓶で殴り続けた。
そして、彩人が跪いて動かなくなり、そのままぐちゃりと床に頭をつけて動かなくなった。
そして、はっとして目が覚めた。
やってしまった。
『大丈夫よ。どんな殺し方だろうと結局事故や病気で亡くなった事になるから』
そう優の方から聖女の声が頭に響いた。
「バレなきゃ何をやっても良いんじゃぞ」
そう、親指を立てた爺ちゃんの幻影が突然に現れて俺に語りかける。
その時に俺が気が付いた。
これ爺ちゃんだけど、爺ちゃんじゃない。
ひいお爺ちゃんだ。
俺は額縁に飾ってある写真しか見た事が無い、所謂やんちゃで我が一族で語り草になっている有名なひい爺ちゃんだった。
「ちょっと、誰よ。この人っ」
優がそう俺に突っ込んだ。
「え? 見えてる? 」
俺が凄く驚いた。