第一部 第一章
今日もまたいつもと変わらない通学路を歩く。
本当に変わらない日のはずだった。
「よう、ゲロ幸」
登校途中で近所の同じ大成高校の二年のクラスメートの西川雄二が声をかけてきた。
温厚で俺と同じくらいの体格で、まあ、いわゆるモブ仲間だ。
「ああ」
俺がそう返事を返す。
最初は嫌だったがゲロ幸もすっかり定着すると普通のあだ名でしか無い。
実際、ゲロみたいな人生だし。
「そういや、聞いたか? 」
「何を? 」
「隣のクラスの彩人の話。クラスの奴をボコって停学だってよ」
「マジか」
「お前も昔、あいつにボコられた事があったよな」
「ああ」
俺が中学生の時にあいつの仲間と揉めてボコられた事を思い出してうんざりした。
そもそも、高校になって暴力沙汰とか笑える話だ。
一応、ここは進学校なんだが。
「まあ、俺もあいつには良い思い出が無いんだわ。これでこのまま退学になってくれりゃ良かったのに」
そう雄二が愚痴る。
それは非常に同感だ。
ようやく校門が見えて来たら、騒ぎになっていた。
「何? 」
「何なの? 」
雄二と俺が不思議そうに呟いた。
「教室で生徒が亡くなってたんだってよ」
さわさわと他の生徒達が騒いでる。
「事故か病気らしいけどな。彩人と仲が良かった奴が亡くなってたんだと」
いつも雄二と俺とで一緒にいる山口大輔が先に来ていたのか、校舎に入ろうとした時に会って、そう教えてくれた。
山口大輔も眼鏡をかけて頭が良さそうな顔はしているが、実力は俺とどっこいどっこいのモブだ。
「へぇぇぇ」
「それで先生とか大騒ぎしている。警察も詳しく調べるみたいだし、それで今日はこれから緊急で休校らしいんだが」
「おおお、それは素晴らしい」
大輔がそう笑ったので雄二も感動していた。
「何が素晴らしいのよっ! 」
そうしたら、隣のクラスの女の子が泣きながら雄二と大輔を怒鳴った。
まあ、クラスメイトが死んでるのに喜ばれたらなぁ。
そう、俺も思った。
「ゲロ幸最低っ! 」
いきなり、その女の子達に怒鳴られた。
「えええええ? 俺は何も言って無いし」
俺がそうウンザリして答えた。
いつも、そうなのだ。
こうやって、全部が俺のせいになる。
そうしたら、クラスメイトの観月優が少し離れた所で、凄い顔でじっと俺を見ていた。
こいつはいつも人をこうやって糞みたいな目で見て来る。
なまじポニーテールが似合う美少女だけにイラッとする。
モブの人間に対して感情を持たないで欲しい。
向こうは思い出したく無いかもしれないが、一応、これでも幼馴染なのに。
「ゲロ幸。後で話があるんだけど」
そう観月優が俺に話しかけてきた。
「ええ? 」
俺が露骨に嫌な顔になる。
こんな事を高校で屈指の可愛い女の子である観月優に言われたら普通ならおいおいって感じで皆が囃すところだろうが、俺の場合はそれは無い。
そもそも、呼びかけがゲロ幸だし。
雄二と大輔もあちゃーって顔で俺を見ている。
二人とも、また何か俺がやらかしたなって顔しているんで苛つく。
「元気出せよ」
うんざりした顔で俺が俯いたら、雄二が肩を叩いて励ましてくれた。
元気なんか出ねぇよ。
今日は二章分投稿します。
夕方にもう一章投稿します。
宜しくお願いします。