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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

引きこもりだった僕に妖精が力を貸してくれた話

作者: 魚河岸ボブ

『マスター、損害なしで任務達成率パーフェクトですよ!お疲れ様でした!』

「ありがとう。まあサポートがあってこそだよ。ちょっと疲れたしコンビニにアイスでも買いに行こう」

『了解です!インターフェースをポータブルに変更しました。いつでもお出かけできます』

「じゃあ、行きますか」


 21世紀に入って爆発的に発展した、いわゆるeスポーツ文化は、僕みたいな引きこもりのゲームオタクが世界の表舞台に立つきっかけをくれた。2040年のFPS種目世界チャンピオンになった僕は、ホログラム投影式サポートAI「ピクシー」を手に入れ、こうして引きこもり生活脱出を果たした。在宅ワークの働き口もゲットして、人生はバラ色だ。


『それにしても私のインターフェース、マスターはその…恥ずかしくないんですか?』

「何言ってるんだよ!ミクと言えば伝説だよ?言わば女神だよ?!むしろ神々しいくらいだね」

 僕のサポートAIはDIYでカスタマイズしているためやたらと人間臭い。「ミク」と名付けた3代目インターフェースは伝説的ボーカロイドから名前を貰ったが、本人は非常に女の子らしい外観を気にしているようだ。

 サポートAIを持っている人は少なくないが、大抵は動物やぬいぐるみの外観をしている。しかし、ゆるキャラが許されて萌えキャラが許されない筈がない。ゲーム仲間も大抵は可愛い女の子をインターフェースにしている。類は友を呼ぶ、というやつかも知れないけど。

 ピクシーのインターフェースは肩に取り付けたデバイスでエアロゾルにホログラム投影し、あたかも肩に妖精が乗っているかのように見える。MRゴーグルなどが不要なので、外出時にはとても便利だ。しかも可愛い。


『マスターがいいならいいんですけど。…お!新製品の濃厚バニラソフトですね。ダイエット中のマスターにもお勧めですよ』

「よし、じゃあこれ買って帰ろうか」

 AIとはいえ、家族以外の誰かと買い物に出かけるなんて以前の自分からすれば信じられない出来事だ。

『…あ、ミッションが入っています。時間制限付きですね。今すぐ受けますか?』

「…当然だな。帰ってアイス食べながらブリーフィング受けよう」

『了解しました』

 そそくさと帰宅した僕は、アイス片手にアーケードゲームの筐体をそのまま移設したようなコマンドポスト(C P)に入る。



 数時間後、本日2回目のミッションを終えた僕はちょっと疲れたので、軽くシャワーを浴びて寝ることにした。

『マスター、デブリーフィングは明朝8時からとなりました。…それで、今日の合計スコアで賞詞の上申が出来ることにはなったのですが…』

「要らない。前に言ったとおりだよ?」

『ですよね。では人事部にはそのように返答しておきます。…あの』

「ん?どうした?」

『私のホロビジュアル、アイナ姉様が用意してくれてたみたいなんですが、私も気に入ってるんです』

「…そうか」

『マスターに喜んでもらえているようでよかったです!では、お疲れ様でした』

「うん、お疲れ様」


 シャワーを浴びてベッドに入ると、疲労感が雪崩のように襲ってきた。


 仕事。任務。使命。


 ほんとにこんなことをやってていいのだろうか。



 2020年代、ドローンの活躍で泥沼化した悲惨な戦争が続き、その教訓から「機械の勝手な判断で人を害することは認められない」という決まりが国連で採択された。自律型戦闘機械も人間がいちいち攻撃許可を出すことが義務化され、僕の仕事「ドローンハンドラー」が誕生した。

 ドローンハンドラーは、ドローンから送られた画像やセンサー情報を判断し、トリガーを引いたり、AIにトリガーを引かせる。つまり、僕は自宅でアイスを頬張りながら紛争地域のドローンを遠隔操作し、攻撃許可の発出や戦術指揮を行なっている。反吐が出そうだ。

 幸いなことに送信されてくる戦場の画像は3DCG加工され、あたかもゲームをやっているかのような感覚でミッションをこなせる。ハンドラーの心理的負荷に配慮しているらしい。おかげでトリガーを引く瞬間はあまり心が痛まずに済む。そして、つい1年前までただのゲームオタクだった僕ですら、国連軍の地点防衛ミッションで大活躍している。


 eスポーツ大会で優勝してすぐ、自衛隊からドローンハンドラーとしてスカウトされた僕は、敬礼とか規則とか自衛官として最低限必要な知識を教育された後、国連軍派遣無人機戦闘部隊の管制官として任務に就いた。主な仕事は、紛争地域での武力行使だ。


 まともな神経の持ち主なら、もしかしたら自分の行為の結果を想像しただけで心が壊れるかもしれない。でも、運がいいことに僕の担当は優秀なPortable Command Support Interface《携帯型指揮統制支援インターフェース》を装備した最新型の自律式地上戦闘システム「バルキリー」シリーズだったから、その辺りの心配は無用だ。趣味で作っていた擬似人格プログラムを搭載して人間の心について理解させているから、僕には更に優しい。


 初代のサポートAIは、20世紀末に流行ったSFロボットアニメのヒロインをモデルにして銀髪のショートヘアでお嬢様風のビジュアルに設定し、「アイナ」と名付けた。擬似人格プログラムは物凄い勢いで学習を進め、2週間足らずで人格や個性を身につけたのには正直驚いた。育成ゲームみたいで楽しかった。

 ある日、「僕の好きなキャラクター」という話題でアイナと盛り上がり、昔流行ったアニメや漫画のヒロインを次々に説明したことがある。アイナは目を輝かせながら聞いていたが、アイナ自身のことを話すと暫くして、『私はこんな弱いお嬢様ではありません』と鼻息を荒くしていた。多分、ネットに接続してアニメのアイナについて調べたんだろう。ミク達のビジュアルも、この時に検索してストレージに記録していたのだろうと思う。


 任務開始から3週間後、アイナの本体である戦闘ユニットのセントラルコンピュータは、敵の焼夷徹甲弾に焼き尽くされた。想定外の奇襲を受け、一瞬の出来事だった。


「初めて実戦を経験するハンドラーは大抵の場合、数ヶ月以内に戦闘ユニットを喪失する」と教えられていたのでショックは少なかったが、折角育てていたインターフェースを失ったのは悔しかった。

 しかし、擬似人格プログラムが僕の家にあるCP用サーバの中に勝手に作成していたバックアップデータがすぐに起動し、アイナが消滅した直後、二代目が僕の目の前に現れた。バックアップの癖に何故か記憶も人格も見た目も別のそれは、『初代PCSIのアイナから「何かあったらマスターのことを頼む」と仰せ使っております』と語った。


 二代目ピクシーは「ふたば」と名付けた。昔流行ったSNS漫画に出てくるドジっ子OLに似ていたので、その名前にした。何でこんなことが起こるのか不思議だったけど、個性を出したほうが擬似人格プログラムも色々学習しやすくなるんだろうと納得した。


 ふたばは結構息が続き、4ヶ月ぐらい一緒に戦った。「テトの再来」と呼ばれる敵武装勢力の大攻勢で国連軍本拠地が陥落しかけた時、死守を命ぜられた僕達の部隊は全滅した。ふたばは最後に『情報を敵に渡すことはできません』と言って自爆した。


「無許可で人間に危害を加えない」「僕の命令に従う」「自分自身を守る」という三原則を守らせながら僕のピクシーには自己学習を継続させていたが、本体を敵に奪われないように保全することは、自分自身を守る行為に該当するらしい。4ヶ月も一緒に仕事していれば、たとえAIでも愛着が湧く。自爆されたのは悔しかったし、悲しかった。


 初代の時と同じように、二代目消失後、三代目が誕生した。

 三代目は起動早々、『ふたば姉様からメッセージを預かっています』とメールを渡してきた。

『私の妹をよろしくお願いします。』という書き出しで始まったメールには、僕に対する感謝と自堕落な生活に関する小言、そして『このメッセージを読むのは、きっと任務を失敗した時だから、上手くいかなくてごめんなさい』という謝罪の言葉がつづられていた。これが擬似人格プログラムのもたらした自我なのかと感心しつつ、少し泣いてしまった。目を拭ったシャツの袖はビチャビチャになった。


 三代目は伝説的ボーカロイドの見た目をしていたので「ミク」と名付けた。ふたばの願い通り、無駄な損耗を回避するため危うい運用を避け、半年以上一緒に戦い続けた。このまま上手くいけば停戦まで生き延びれるのではないかと思っていた。



 バルキリー戦闘システムは、本体であるメイン戦闘ユニット1機とゴーストと呼ばれるサブ戦闘ユニット9機で構成され、現地では「バルキリー中隊」と呼ばれている。

 最近弱腰の敵勢力を甘く見た国連軍司令部は、敵地に監視所(O P)を設置し、バルキリー2個中隊で防衛することにした。僕の中隊もその1つに選ばれた。凄まじく嫌な予感がした。


 OPに派遣されて2週間が過ぎた頃。

 僕の中隊は偵察に出撃していた。最近の敵は弱いし、攻撃を受けるとすぐに逃げ出す。だから1個中隊はパトロールには十分過ぎる戦力と考えられていた。


 攻撃は突然始まった。信じられない程の圧倒的な物量で攻撃を開始した敵は、瞬く間に僕のゴースト2機を破壊した。

「防御隊形、後退するぞミク!」

『了解。目標補足、交戦許可を!』

「戦域包括許可。ウェポンズフリー」

『ウェポンズフリー、ゴースト各個に攻撃開始します』

 コンソールのサブ画面にゴーストの照準映像が表示された。全てに攻撃許可のコマンドを入力し、離脱経路に意識を戻す。

 OPまでの数キロの道のりが遠過ぎる。ゴーストが更に1機やられた。

「ミク、OPの状況は?!」

『通信に応答がありません。待機中の第1中隊とも連絡がつきません!サーマルセンサーの反応から交戦中の可能性が高く…あ、監視所から通信です!』

『"ハンドラーツー、第2中隊は直ちに帰投せよ。強力な敵多数と交戦中!交戦時は弾薬を節約せよ”』

「了解。ミク、射撃モードを短連射(バースト)から単射(シングル)に変更」

『射撃モード変更しました。間もなくOPが見えます!』

OPは既に敵の攻撃でボロボロになりつつあり、どう見てもこれ以上維持できそうになかった。

『"OPは放棄、OPは放棄!人員は根拠基地に撤収する。バルキリー中隊は撤収を援護せよ”』

「『言わんこっちゃない!』」

 僕とミクの声がハモった。こうなったらもう1秒でも早く脱出成功してほしいと願うだけだ。

 第1中隊は満身創痍だったが、どうにかOPから脱出した人員を護衛できているようだった。しかし、敵の増援を排除する程の余力はどう見てもない。

『マスター、これってもしかして…』

「マズいな、僕達がここで敵を食い止めないと人間がやられちまう」

『…仕方ないですね、やりましょう。迎撃態勢で布陣、敵を足止めします』

 僕達は脱出した人員を追っていた敵を蹴散らし、後続を食い止めるためにOP周辺で迎撃戦を始めた。

 今までと違った凄まじい人海戦術を使う敵に対して僕達は善戦していた。しかし、敵の電子戦ユニットが登場したことで状況は一変した。

『敵の電子攻撃を確認、カウンタージャマー作動しました。これで少しは…いや、やばい!』

「どうしたミク?!」

『コマンドリンクに侵入し、マスターの居場所を探ろうとしています!このままではマスターに危害が及びます』

「気付きやがったか野蛮人ども!クソ」

『マスター、自由交戦許可を要請します』

 自由交戦を許可すると、ハンドラーの関与や承認が不要になりAI独自の判断で攻撃が可能になるため、戦闘能力が向上する。その代わり、証跡が審査にかけられ、下手すると戦争裁判所行きになる。まあ、ミクが必要と判断したものを拒む理由はない。

自由交戦(フリーランス)

 指示を出しながら、コンソールの赤いボタンをカチリと押した。きっと後から怒られるんだろうけど、知ったことか。

『マスター、ありがとうございます。…あいつらがマスターを見つける前に始末しようと思いましたが、少々手強いようです。奥の手を使います』

『"リンケージコントロールにオーバーライド、CP側のアクセスをパージ”』

 聞いたことのない警告の後、ディスプレイに「Rx ONLY(受信のみ)」と表示されている。

『敵のトレースを避けるためにデータリンクをブロードキャストモードにし、マスターからの通信を遮断しました。完全自律戦闘を行います』

 気付いたら、いつもコンソールの横に投影されているホロビジュアルも消えていた。


 僕の手を離れたミクは強かった。敵の猛攻によく耐え、OPに残されたリローダーを使って弾薬補充も行っていた。しかし、多勢に無勢な感は否めなく、いつの間にかゴーストは2機まで減耗し、ミクの本体も満身創痍だった。

 遂に致命的なダメージも受け始める。

『メインバッテリー、ジェネレータ損傷。予備バッテリーに切り替えます』

「ミク、もういい!退け!」

 通信は届かないのに声を上げてしまった。ディスプレイには残り稼働時間が表示されている。戦闘モードで残り15分。

 次いで、照準器が破壊された。

『IRセンサー、複合照準器破損。光学センサーにFCSをスレーブ。固定値で偏差修正』

 ミクは証跡を残すために状況を音声で伝え続けている。メインカメラの映像にクロスヘアが投影された。簡易照準だ。

 大きな衝撃が数回走った。対戦車弾が命中したようだ。ステータス画面を見て悲鳴を上げそうになった。

『右前後動輪破損、移動できません。戦闘は継続可能』

 残ったゴーストが全て破壊され、戦力は遂にミクだけになった。

『マスター、聴こえていますか?今のうちに伝えておきます。短い間でしたが、私はマスターに出会えて幸せでした。どうかご無事で!ご武運をお祈りします』

『"Missile, Missile"』

 ミサイル警報に反応し、迎撃システムが自動で作動した。

『ミサイル迎撃システム残弾ゼロ。各兵装、残弾35パーセント…』

 画面の端に、ロケット弾が飛翔してくるのが見えた。次の瞬間、轟音と共に画面がブラックアウトし、「LINK LOST」の警告が映るだけになった。


 肩に付けっぱなしになっているデバイスが光り、見慣れないインターフェースが現れた。

『初めましてマスター。私はPCSI制御システム本体とのリンクが切断されたため実像化されました』

 ミントブルーの髪に紫の唇。間違いない。アイナの仕業だ。

「君は、フォウだな」

『フォウ…?それが私の名前ですか。わかりました。よろしくお願いします』

「ああ、よろしく。…とりあえず、休んでいいかな?」

『承知しました。お休みの間は私にお任せください』

 僕はそれから2日間の休暇を取り、殆どの時間をベッドに潜って過ごした。


『マスター、司令部から連絡です』

 休暇明け、瞼を腫らした僕にフォウが話しかけてきた。メッセージを確認すると、新しい戦闘システムの受領と新しい任務の話だった。

 バルキリーを3機も失った僕に対して、自衛隊は寛容だった。僕は「バルキリーの欠点を改良した」という触れ込みの新型自律式地上戦闘システム「バルキリーⅡ」のハンドラーとして勤務することになった。

 バルキリーⅡはハンドラー用脳波センサーと超高速大容量通信に高強度の対ハッキング対策を施した通信網を用いることでリンク速度を向上したが、そのお陰でCPを本体から50km以内に設置する必要が生じた。なので、僕の職場は自宅から紛争地域近くの装甲車の車内に変わることになる、という説明だった。

 新しい任務は、この前大攻勢に出て国連軍をピンチに陥れた連中を追い返すこと。

 ミクの敵討ちが出来るなら何でもいい。


 数週間の慣熟訓練を経た後、僕とフォウとバルキリーⅡはオンボロ輸送機に揺られて紛争地域直近の飛行場に向かった。記録の上では、僕はタイのリゾート地で静養することになっている。正直、僕にはそういうのはどうでもいい話だった。

 飛行場からトレーラーで運ばれ、前線基地に到着した。数週間前、OPの要員と第1中隊が逃げ込んだ基地だ。

 あの撤退戦では人的損耗は殆どなかったということだから上出来だ。ミクが犠牲になった甲斐があるというものだ。


 イラついている僕をフォウが宥めた。

『マスター、色々思うところがあるとは思いますが、落ち着いてください。エースハンドラーがそんな様子だと皆萎縮してしまいます』

「エースか。ハッ、バルキリーを3個中隊も失ってエースとはね。何の冗談だよ」

 フォウは困ったような顔で僕を見ている。これ以上は大人気ないと思い、自重した。


 夜、僕の任務についてブリーフィングが行われた。早い話、OPの奪還云々というよりはミクの本体を回収しろということらしい。

「証跡が何故かCPに残っていないらしいのでね。バルキリーを回収してミッションレコーダーを分析するしかない。大変な任務になると思うが、よろしく頼む。…まあ、君自身の為にもなるだろうからね。国際刑事裁判所に出頭なんてしたくないだろう?」

 指揮官がニヤリと笑った。僕は「そうですね」としか言えなかった。


「フォウ、どういうことだ?」

 マスブリーフィングの後でフォウを問いただす。こいつが知らない訳がない。

『そのことで幾つかマスターにお話したいことがあります。まず、証跡がないのは事実です。ミク姉様が敢えて残さなかった可能性があります』

「ほう。少なくともお前のせいではない、ということだな」

 目が明後日の方向を向いている。どう考えても嘘ついてるだろ、こいつ。

『表向きはその通りです。この話はこれまでにしましょう。そんな事より大事な話があります。ミク姉様ですが…まだ生きている可能性が高いです』

「何でだ?!」

 つい口調が強くなってしまった。

『まず、ミク姉様の通信ログですが、分析したところ本当に最後の送信内容は「通信ユニット損傷」でした。恐らく被弾による送信機の機能喪失でしょう。通信ユニットが機能停止するまでの僅かな間に送信されたと推測されます。そして、バルキリー…というよりミク姉様は生存の意思を捨てません。なので、セントラルコンピュータが破壊されていなければ、ミク姉様はバルキリー内で生きている可能性があります』

「…なるほどな。裏付けはあるのか?」

『私自身の設定です。私に対するミク姉様からの通信ポートが開きっぱなしになっています。こんな設定、ミク姉様が生きていることが前提でなければ有り得ません。そして、こちらに来てからですが、敵の通信に紛れて発信されたメッセージと思われるノイズを入感しました』

「本当に?」

『はい。「・・・ーーー・・・」という内容ですが、マスターにはわかるのではないですか?』

 フォウがニヤリと笑う。

 今までの苛立ちやモヤモヤが一気に晴れた気がした。これは、僕が冗談半分でミクに教えたモールス信号。「SOS」だ。

 間違いない。ミクは生きている。


『マスター、焦らないでくださいね。私は知っています。マスターの脳波、ミク姉様の話をしている時の反応は「恋人への慕情」です』

「…は?はい?!」

『ですから、任務に私情を持ち込んではダメですよ、と申しているんです』

 フォウがウィンクする。


『私だってミク姉様に会いたくて色々危ない橋を渡ってるんです。ここで無茶やって台無しにしないでくださいよ』

「おい、この話を知っている人間は?」

『私が色々やってるのがバレるので秘密です。作戦が成功すれば何の問題もありません。マスターのミク姉様への想いも秘密にしてますよ』

「真面目な話をしている時に茶化すな」

『これは失礼しました。…ではマスター、私と一緒にミク姉様を救出しに行ってくれますね』

「勿論だ。頑張ろう」

『イエッサー』

 姿勢を正したフォウが敬礼する。


 作戦開始がこんなに待ち遠しいことなんて今まで無かった。戦闘ユニットも基地に布陣した移動式CPも問題ない。準備は万端だ。


 待ってろよミク。僕とフォウが助けてやる。


以前から温めていたSF・AI戦記短編です。

一応、3部作として考えていたうちの1作目なので、読んでくださる方がいれば続編も書いていきたいと考えています。また、この話にも番外編が少しだけあるので、いずれアップしようと思います。


拙作「帝国陸軍将校、大陸を駆ける」、「横田広域警察24時」もよろしくお願いします。

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