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「――ナイスキャッチだったわ、ジョシュア」



馬車に向かう道すがら、今日の仕返しのお礼を愛しい人に告げる。


打ち合わせも無くあれだけ合わせてくれるなんて、本当に素敵な人。


ジョシュアは高い身長を屈めて私の頭のてっぺんに口づけを落とすと、私の背中と膝裏に手を回して、あっという間に抱え上げてしまった。



「きゃっ……!」

「予想できたことだし間に合ったとはいえ、肝が冷えた。頼むから、もう二度とやらないでくれ」



眉尻を下げてそんなことを言う彼を可愛く思いながら、顔が近づいたことで頬が染まる。



「も、もう……、心配し過ぎよ」

「ああ、つれなくされた期間が長すぎて、随分と過保護になってしまうようだ」

「う、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「喜んでくれるなら、国に戻ったらしばらく俺の城に閉じ込めておこうかな。仕返しも上手くいったようだし……スッキリしたか?」



そう言って顔を覗き込んでくるジョシュアに、笑みを向ける。



「ええ、馬鹿の思い込みが激しいのに辟易したけれど、貴方がいない間も最高のショーを最前列で愉しめたわよ。王子と聖女候補の修羅場は見応えがあったわねぇ」



うっとりと思い出していると、ジョシュアも嬉しそうに表情を緩めた。



「それは何より。この程度のことで、君の傷つけられた心が救われるとは思わないが、少しでも気が晴れたのなら良かった」



そんなことを言うジョシュアの頬に、手を添える。



「私の心は、もう貴方が救ってくれたわ。……あとは、素敵な結婚式を挙げて、これからずっと幸せに暮らすだけよ」

「それなら心配要らない。全て叶えると、約束する」



笑い合って待たせていた馬車に乗り込むと、私たちはベルハイム帝国へ向かったのだった。



***



私の祖国であるウィンバーグ王国のその後について、風の噂という名の間諜や友人たちからの連絡が続々と届いた。



それによると――まず、レベッカは新しい神託によって、聖女候補の座から降ろされたらしい。


彼女の生家である伯爵家は信仰心の強い神の信者ばかりで、聖女候補として生まれておきながら務めを果たせずに神殿から追い出されたレベッカを迎え入れるはずもなく、彼女を呪われた魔女と呼んで放逐したそうだ。


そして神に仕える身でありながら、自分たちの望みのために大勢を振り回して傷つけたレベッカと護衛神官を許すほど、神は寛大ではなかったらしい。

神の怒りに触れた彼女たちには、神罰が下された。


愛する恋人のために他者を顧みることのなかった彼女たちは、互いに触れ合い、言葉を交わす幸せを奪われた。


レベッカは声を失い、あれほど愛らしかった顔が老婆のように皺くちゃになってしまったそうだ。

護衛神官の男は視覚と聴覚を奪われ、他人に触れられると激痛が走る身体になった。


レベッカは大勢を魅了した容姿と言葉を封じられ、護衛神官に触れられず世話をすることすら困難な環境の中、何一つ知識のない俗世で生活費を稼がなくてはならなくなった。

護衛神官はレベッカの存在を感じ取れず、むやみに動き回ることができなくなったので、彼女を守ることが不可能となった。


そのうえ、遠く離れてしまうと互いに泣き叫んでのたうち回るほどの激痛が走るので、レベッカは己を認識できず、無力感に苦しむ護衛神官の姿を、心を痛めながら見続けなければならなかった。


今は何とかレベッカにもできる仕事を請け負い、細々と二人で暮らしているらしい。


心の底から自分たちの罪を悔い、心を入れ替えれば、いつか神が赦す日も来るのかしら?

それとも――あれほど愛し合った気持ちを忘れ、醜く互いを憎み合う日々の訪れの方が、早いかしら?


彼女たちに関しては、全ては神の御心のままに……としか言えないわね。

神罰を落とした人間に対して、赦しを与えるなんて奇跡があるのかすら、私なんかにわかるはずもない。



カーティスはあれだけの騒動を起こしたにもかかわらず、王太子の座を諦められなかったらしく、第二王子を毒殺しようとして、暗殺未遂で王宮の敷地内にある塔に入れられた。

きっと第二王子さえいなければ、なし崩し的に自分が王太子になれると思ったのだろうけど……あまりに短慮すぎるわよね?


今のところ処刑される予定は無いそうだけど、国王が第二王子に王位を譲る日も近いと言われていて、第二王子が国王となった後にどのような処遇が待っているのかは、そのときになってみるまでわからない。


だけど、過去に己がしでかしたことを回想するしかない日々の中、緩やかに狂い始めているという証言もあるようで、もしかするとそんな噂が広がる前にあっさりと病死(・・)してしまうかもしれない。


私からすれば、あの男の頭がオカシイなんてことは今更過ぎるので、だからどうしたという感じである。



ウィンバーグ王国をはじめとした、各国の社交界もなかなかに荒れ模様みたい。


レベッカたちの悪行や、カーティスの起こした婚約破棄にまつわるアレコレが知れ渡ると、アカデミー時代に散々行われてきた令嬢たちの忠告は、嫉妬による言いがかりや杞憂などでは決してなかったと、ようやく理解され始めた。


そうして人々の意識が変わっていくと、責められたのはアカデミーでの異常事態に苦言を呈していた令嬢たちやその婚約者の親たち(・・・)だ。

娘の将来を心配したり、息子を諫めるべき保護者達が揃って『許せ』と強要していたのだから、風当たりは相当強いらしい。


そんな親たちの中でも最も非難を浴びているのが、私の両親であるシモンズ侯爵夫妻だ。


まさか衆目の中で国王陛下の悪口を言うわけにもいかないという事情もあるだろうけど――アカデミー時代から続く侯爵令嬢の不幸な日々が、第一王子カーティスによる婚約破棄という悲劇で幕を降ろしたにもかかわらず、娘が不当な扱いをされたと王家に対して訴えるでもなく、非のない傷心の娘に対して鞭打つように婚約破棄された事実を責め、恐ろしい帝国人である他国の皇太子に金を積まれて売り払ったのだと、別れの時ですら『もう嫁に出したのだから、帝国で何があろうと出戻ってくることは許さない』と送り出したという噂が広がると、批判はより加熱した。


両親は「娘には耐え難いことも『許せ』と言っておきながら、生家への帰郷すら『許さない』とは、とても実の親とは思えない」と集中砲火を浴びたらしい。

誤解を解いてほしいと、帝国に渡った私に手紙が届いたけれど……言われて当然の人たちだし、もう二度と会うつもりも無いので書きたいことだけ書いて送り返した。


「噂に嘘は無く、私が訂正すべきことはありません。貴方がたが皇太子の持ってきた金貨に目をくらませていたことも、私を『野蛮で恐ろしい』と仰った帝国の皇太子の元へ家畜のように売り払ったあの日の顔も、よく覚えています。貴方がたが受け取ったのは、異国へ嫁ぐ私と縁を切るための手切れ金であることはご承知の上だったはず。既に私の故郷はベルハイム帝国であり、私の家族はもうすぐ夫となる皇太子や、皇帝陛下をはじめとしたベルハイム帝室の方々です。今後、赤の他人であり他国の貴族である貴方がたからの手紙は受け取りませんし、あの邸に帰ることもありません。どうぞ、娘を売り飛ばして得た資産を有効にご活用ください。それでは」


ジョシュアと婚約を結んでから出発するまでの間に、彼が両親を散々やり込めてくれたし、私としては両親に何の期待もしていなかったから、それで十分満足していたのだけど……最後の手紙と思うとつい、筆が乗ってしまったわ。


アカデミー時代の私を良く知る令嬢たちや、汚点のない真面目な令息たちなどが「クリスティナ様はこの国の未来を背負い導くに相応しい御方だったのに」と、私が帝国へ渡ったことはウィンバーグ王国にとって多大な損失だと嘆いたことで、それも合わせて責められたそうだ。


一時的に大金を手にしても、貴族社会での信用を失ったシモンズ侯爵家は、ゆるゆると衰退していくことだろう。


親たちは保護者としての義務を怠ったと責められる中、令嬢たちの『許し』を享受してレベッカを囲んだ婚約者たちも、当然ではあるけれど非難を浴びた。

彼らはカーティス同様、『レベッカがあんな悪女だとは知らなかった』『騙されていたんだ』と弁明したそうだけど、挽回の機会が与えられるかは、それぞれ婚約者である令嬢に委ねられた。


結婚式が間近に迫っていたことや、大抵の令嬢は不満を飲み込んで既に受け入れていたこともあり、大半は形ばかりの謝罪を受け入れ、そのまま夫婦となる者たちが多いようだった。

令嬢の中には婚約者の浮気を横目に、自分も在学中に好き放題していたパターンもあり、この場合はお互い様とされた。

これからゆっくりと仲を深めていくのか、仮面夫婦のまま過ごすのかも、彼女たち次第である。


令嬢たちの親までもが静観していた事情もあり、家同士の衝突という形ではないものの、令嬢が拒絶して婚約破棄となったケースも少なくない。

既に勤め先が決まっている令嬢などは、『しばらく一人で過ごす』と家を出る人もいるのだとか。


逆に、悪あがきせずに己の非を認めた令息も一部いたらしく、これを機に、関係の改善を図りたいという前向きな声も出てきているらしいので、婚約者同士でしっかり話し合ってほしいと思う。


『こんな風に、自分たちの訴えが正しかったものとされて、言い分が通るのはきっと今のうちだけよ』という現実的な声もあって、世論が味方しているうちにどれだけ結婚相手と婚家、実家での実権を握れるかが勝負だと息まいている友人も、中にはいた。



何にせよ、私とジョシュアはウィンバーグ王国から離れたベルハイム帝国にて、宣言通り生涯幸せに暮らしたのだった。



奇を衒わない感じのざまぁを目指したつもりだったのですが、やっぱりなんだか違くなってしまいました(汗)

基礎を押さえた、普通のざまぁにしたかったのに……!(逆にどんな話よそれ)

そして、またしても短編だったのに文字数が増えまくって連載投稿となりました←


イメージは理詰め論破系と、そのまんま返し+αです。

最近は悪女思考ばかり書いていたり、ヒロインが嫌味混じりの口調なことが多いので、口悪いタイプで少しさっぱりめにしてみたつもりです。

※終盤は全力の嫌味

※理詰めというよりは、揚げ足取りタイプですかね?


「俺のこと愛してるだろ?」って言われる流れってマジで腹立つよな~とか、いつまでも非を認めないヤツってキモいよなぁ~というのを体現したのが元婚約者であるカーティスです←


今回もわーっと書いてチェックが甘い中、誤字脱字報告してくださった皆様、本当にありがとうございます!

やっぱり今回もキャラ名を間違えるという盛大なミスが発覚しました←

(修正済みです)


感想でいただいていた親たちや令嬢たちのその後についても書き足しています。

一応スッキリさを優先させたつもりです。


評価ボタンやいいねボタンもポチポチっとしていただけますと嬉しいです。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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[良い点] カー元王太子はキモキモのキモ男で、コイツ婉曲な三行半では、絶対ロミオメール(手紙)送ってくる輩やん…マジキモ…(何回言うねん)だったので、このくらいはキッパリ言ってやらないと、と思いました…
[良い点] この物語も完全な読み専であった時に読ませて頂きました。少しは書き手側の思いが分かってきたつもり(あくまで当社比ですが)なので再度読ませて頂きました。 この作品にはこれらの事を感じました。 …
[良い点] 婚約破棄ザマァものに必要な要素が簡潔かつ不足なく収まっていたと思います。お手本のようなお話ですね。 第二王子や王妃たち、国王以外の王室メンバーがどんな人かはもう少し知りたかったかな?クリス…
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