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ゆるっと設定の言いたい放題系ざまぁ再び。

ヒロインのお口がやっぱり悪いのでご注意ください。

2022/05/10 修正&追記しました。誤字報告してくださった皆様ありがとうございます!!!



眩い午後の日差しが差し込む豪奢な王宮の一室にて、私――クリスティナ・シモンズは呆気に取られていた。


何故なら先日、まさにこの部屋で、自分のことを散々バカにした挙句に婚約破棄を突きつけてきた張本人である第一王子のカーティスに、改めて「側妃にしてやる」と尊大な態度で告げられたためである。



「側妃?」

「そうだ。俺の正妃となるのは愛しいレベッカだと決まっているが、お前も王子妃教育を受けた身。せっかく学んだことを活かせないのでは可哀想だろう? だから寵愛を与えてやることはできんが、せめて妃の位には就かせてやろうと思ってな」



勝手に婚約破棄したせいで父王にはコッテリと絞られただろうに、まだ私を呼びつけた挙句にこれだけの態度を取れるのだから、素晴らしく頑強なメンタルだと感心するしかない。



「お前はまだ俺のことを愛しているのだろう? それくらいは報いてやらんとな」

「…………。はぁ……、愛、ねぇ」



自信満々にそんなことを言われて、私はやっとの思いで溜息混じりに生返事を返す。



……確かに、私の初恋の相手はアンタだったけれども。


そんなものは大昔の話であって、侯爵令嬢として生まれ、王子妃となるべく幼少のころから育てられてきた私を側妃として娶ろうだなんて、とんでもない侮辱である。



幼いころ、婚約者となった彼に初めて挨拶に行った際のことだった。

広大な王宮の敷地内で、父とはぐれて迷子になってしまい、幼い私は心細くて一人寂しく泣いていた。

そんなところへ、大人任せにすることなく自らの足で私を探して迎えに来てくれた、温かい微笑みを浮かべる優しい少年と将来結婚するのだと知って、嬉しく思うのと同時に淡い気持ちを抱いた。


その気持ちは、間違いなく私の初恋だった。


幼い私だったけれど、未来の王子妃に求められるものは多かった。

この気持ちがあったから、どんなことでも頑張れた。



それからの数年間は、今にして思えば幸せな日々だった。



人形のように整った顔立ちに加え、黄金色の豊かな髪に煌めくルビーの瞳を持つクリスティナ・シモンズ侯爵令嬢。

国王譲りの艶やかな漆黒の髪に澄んだ青い瞳を持ち、幼いながらも大人びた表情を見せる第一王子カーティス。


王子妃教育のため頻繁に顔を合わせる私たちの姿は、王宮中の人々の目に大層睦まじく映ったようで、まるで一対の芸術品のようだと絶賛されたものだった。


当時の私たちは、互いを思い遣りながらも国のためにと共に勉強に励んでいた。


大変だったけれど、充実した日々だった。



けれどいつしか、カーティスは弟である第二王子と王太子の座を巡って険悪になり、私にもこれまで以上の献身を求めた。


だからこそ、彼を支えるために様々なことに打ち込み、立派な王子妃と認められるように成果を残した。

時にはカーティスに対して心苦しく思いながらも、必要と思えば諫言までしていたのに。



そんな長年に渡る私の努力は、いとも容易く裏切られた。



成長した私たちは、周辺国の王族や貴族の子女が集められたアカデミーでの生活を送るようになったけれど、そのあたりからカーティスに疎ましそうな態度を取られることが増えていった。

日々、己を追い込みながら、彼に対しても小言のようなことばかり告げてくる私が、鬱陶しかったのかもしれない。


言い訳させてもらえるなら、私も必死だった。

アカデミーには他国から集まった優秀な生徒がたくさんいて、侮られないよう、死に物狂いで頑張っていた。



だけどそんな私から、カーティスは次第に距離を取っていき――レベッカと恋に落ちた。



レベッカは私たちと同じ国の伯爵令嬢として生まれながらも、特殊な環境で育った少女だった。


愛くるしい顔立ちに流れるような銀髪の美少女ながら、神託と神官による認定により、赤子のころから聖女候補として神殿に引き取られ、成長してアカデミーに通うまで一歩も外に出たことがないという、文字通りの箱入り娘である。


俗世から切り離された環境しか知らない彼女は、貴族令嬢としての一般常識に欠けていた。


大半の生徒たちはそんな彼女に、排他的ではないながらも一定の距離を保って接していたけれど……だからこそ他の女子生徒とは違い、明るく奔放なレベッカを好む者たちもいた。

カーティスもレベッカの振る舞いを新鮮に感じ、好感を抱いた一人だった。



神殿育ちの彼女は、他者の心に寄り添い、温かく励ますために掛けるべき言葉をよく心得ていた。


入学から大した間も置かずに、彼女を慕う男子生徒たちを引き連れる姿が日常となった。

はじめのうちはレベッカの傍に女子生徒もいたけれど、何度注意を促しても、婚約者のいる男子生徒ばかりに声をかける彼女に辟易して離れていった。


そう……レベッカを囲むのは、婚約者がいる者たちばかりだった。

というよりも、そもそもアカデミーの性質上、婚約者のいない生徒の方が圧倒的に少ないのだけど。



そんなわけで、レベッカにばかりかまける婚約者に苦言を呈する令嬢たちを見かけるのも、アカデミーでの常態化した日常の風景の一コマだった。


私も婚約者の浮ついた姿を見せつけられていた令嬢の一人で、頭を抱えながらカーティスにレベッカと距離を置くように指摘したことは、一度や二度のことではない。


けれど、令嬢たちに何をどれだけ言われても、彼らが婚約者の言葉に耳を傾けることはなかった。

むしろ『苦しい日々での唯一の救いを奪うのか』『俺たちをここまで追い詰めたのは誰だ』などと、己の行いを棚に上げて逆上してくる始末。


彼らがレベッカに恋心を抱いているのは、誰の目にも明らかだった。

レベッカ自身は、流石は慈愛の聖女候補とでも言おうか、特定の誰か一人を選ぶようなことはしなかった。


そのせいで数年間、モヤモヤとしたものを抱えさせられた側からしては堪ったもんじゃない。

在学中、レベッカを囲む男子生徒たちと、婚約者である令嬢たちとの間の溝は、深まるばかりだった。


終いには『学生の間くらい好きに遊ばせろ』『その程度すら許せないなんて狭量だ』という言い分を正当化して、近づいただけで文句を言うようになった連中に、アカデミー中から白い視線が向けられたけれど……頭のネジを回収不可能なほど遥か彼方に飛ばした彼らは、醜聞などものともしない鋼のメンタルを手に入れたらしい。



当然、私たちは婚約者や自分の親にこの事態を報告した。

けれど返ってきたのは『卒業するまでのことだから許してやれ』という、彼らの行いを肯定する内容だった。


そんなことを強要された側としては『全員禿げろクソ親父どもが』という認識で一致したものの――結局、令嬢である私たちには選択肢など無かった。



そんな苦しい日々も、アカデミーを卒業してしまえば過去のもの(・・・・・)になると……私も他の令嬢たちと同様に、淡い希望を抱いていた。

もう、そう思って慰め合うしかなかった。


だけど――。



先日告げられた、常軌を逸した言葉の数々を、暗澹たる気持ちで思い出す。



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