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5.

 案内された部屋は、お城の雰囲気と相まり可愛らしく、そして広い部屋だった。


「素敵……」


 思わずそう呟けば、侍女は「お気に召して頂けたようで良かったです」と先程の殿下と同じ言葉を口にし、言葉を続けた。


「本日よりリリィ様のお部屋はこちらを使用して頂きます。 

 何か不備がございましたら遠慮なくお申し付け下さい。

 それから、そちらの扉はシャルル皇子殿下との共有のお部屋に繋がっていますので、お知りおき下さい」

「きょ、共有!?」

「?」


 侍女の首を傾げる様子に、私はハッとして「な、何でもないわ」と口にしつつも、内心冷や汗をかいていた。


(そ、そうよね! わ、私は結婚する身だもの、部屋だって隣に相手の部屋があるのは普通のことよね……)


 実家であるフランセル城だってそうだったもの、と逸る鼓動を落ち着かせるためにそう自分に言い聞かせながら、火照った顔を誤魔化すために話を変える。


「そ、そうだったわ、貴女のお名前を教えてくれるかしら?」


 私がそう尋ねると、侍女はハッとしたような顔をして慌てて頭を下げた。


「申し遅れました、私はリリィ様付きの侍女を仰せつかりました、アンナと申します。 宜しくお願い致します」

「まあ、私に付いてくれるのね。 失礼だけど、歳は私と同じくらいかしら?」

「今年で17になります」

「では、私より一つ年上なのね! 同世代でお話出来る方がこんなに近くにいて嬉しいわ。

 アンナ、これからよろしくね」

「! こちらこそ、宜しくお願い致します、リリィ様」


 そう言ってアンナは微笑んでくれたのだった。





 その後、部屋で休息を取ってからお食事をと呼ばれたのは、こちらもまた豪華な晩餐室だった。

 長い机にお兄様と私が向かい合って座ると、後から来たシャルル殿下が私の隣に座った。

 一瞬その行動に驚いたものの、結婚するのだから仕方がないわよね、と少し震えてしまう手に力を込め、机の下で服の裾を握った。

 そんな私に対し、シャルル殿下は人前で見せる柔らかな口調で尋ねた。


「リリィ姫、疲れは取れたかな?」

「はい、おかげさまで」


 この言葉は本当だった。 アンナが部屋を出て行った後、私はベッドに横になるとすぐに眠りにつき、数時間ほどそのまま眠ってしまったのだ。


(知らない間に疲れが溜まっていたのか、それともあの柔らかなベッドの寝心地が良かったのか……、どちらもね)


 なんて考えていると、シャルル殿下が「そうか」と満足げに頷き、今度はお兄様に向かって言った。


「式は予定通り明日行います。 セドリック殿下はその後すぐ帰国されるのですよね?」


 お兄様はそれに対し「はい」と頷きを返す。

 そう、お兄様は他国にあまり長居は出来ないと、結婚式を見届けたらすぐに帰ることになっている。

 私としてはもう少しいて欲しかったが、そんな我儘を言って困らせるのも良くないと分かっているため、ぐっと我慢する。


(明日からは正真正銘この国で一人で暮らすことになるのか……)


 考えると暗い気持ちになってしまうため、気を逸らすために目の前に次々と並べられていく料理の数々に集中することにしたのだった。





「ふぅ……」


 美味しい食事に舌鼓を打った後、アンナに湯浴みを手伝ってもらい、寝衣に着替えた私は、火照った身体を冷まそうとバルコニーに出た。


(つい美味しくて食べ過ぎてしまったわ。 明日は結婚式だというのに……)


 まさか前世で敵国だった相手の“お飾り婚約者”になるなんて。 人生分からないものね、と自分を皮肉交じりに笑ってみると。

 ガチャ、と隣の部屋のバルコニーの扉が開いた。


「え……」

「!」


 私とその人は互いに驚き、言葉を失う。


(シャルル殿下……)


 そこには、月明かりに照らされてより一層神秘的な雰囲気を醸し出す、私の結婚相手の姿があった。


「「……」」


 互いに沈黙し、涼しい風が私達の間を吹き抜ける。

 先に沈黙を破ったのはシャルル殿下だった。


「そんな薄着で外に出て風邪を引いたらどうする」

「!」


 その言葉に心配してくれているのかと思ったのも束の間、彼は付け加える。


「結婚式は明日だという自覚はないのか」


(なんだ、私の心配ではなく結婚式の心配か)


 それになぜか少しガッカリしている自分がいることに見て見ぬフリをして、私はふんとそっぽを向き答えた。


「大丈夫です。 この数年一度も風邪なんて引いたことはありませんから」

「……」


 彼は何も言わず、ただ小さくため息を吐いたのが耳に届く。

 それにカチンときた私は、気が付けば自然と口を開いていた。


「そんなに結婚が大事?」


 私の言葉に彼が顔を上げる。 私はその様子を横目で見ながら続けた。


「この結婚に何のメリットがあるというの? 貴方の目的は?

 なぜ私に執着するの?」

「!」


 彼はアイスブルーの瞳を大きく見開く。 そして何か言いかけたが、ふいっと顔を背け呆れたように言った。


「……君は質問ばかりだな」

「貴方が意味の分からないことばかりするからでしょう!?」

「……」


 私の言葉に彼は何も言わず、その場を後にしようとする。 その背中に向かって怒鳴った。


「質問に答えて!」


 私の大声に驚いたのか、反射的に彼はこちらを向いた。

 私がその瞳をじっと見つめれば、彼は再度私の方に向き直り、凛とした口調で言った。


「言っただろう? 私との結婚を断れば君の国も戦火に巻き込まれると」

「っ、だからそれが何故かと言っているの!

 だって貴方は……、私のことが好きではないんでしょう!?」

「!?」


 彼の色素の薄い瞳がこれ以上ないほど大きく見開かれる。

 その様子を見てハッとした。


(っ、私は何を……!)


 自分でも驚いた。

 まさか、こんな言葉が口から飛び出るなんて。

 違う、とその言葉を取り消そうとした私よりも先に、彼が静かに言った。


「あぁ」

「……!」


 少しの躊躇いもないその肯定を意味する返しに、私は一瞬息が出来なくなってしまう。


「意味が、分からない」


 掠れた声でようやく口にした言葉は、離れた場所にいる彼の耳に届いたかは分からない。

 ただ、そう返すので精一杯で、私はバルコニーを後にし部屋へと戻った。

 そして、ふと視線の先にあった鏡に映し出された自分に姿を見て、驚き頬に手をやる。


「あれ……。 なんで、私」


 ―――泣いているんだろう?





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