Epilogue
「緊張している?」
私がそう尋ねれば、シャルルは何処か青い顔をして「うん」と素直に頷いた。
私は繋いだ手にそっと力を込めると、笑みを浮かべて言う。
「大丈夫、私も一緒にいるわ。
……私達はこれから先もずっと、一緒にいられる。
今度こそ、私達が思い描いていた“幸せな結末”を紡いでいくの。
今日はそれを、形にする日よ」
「リリィ……、うん、そうだね。
いつまでも恐れていてはいけないよね。
あの時……、何も知らなかった、何も救えなかった時とは違う。
僕達は何度もやり直して、積み重ねて、乗り越えて来たんだ。
……今度こそ僕は、君を手放しはしない。
僕は今度こそ、君を守り抜くと誓うよ」
「えぇ! 末永くよろしくお願いいたしますわ。
私の……、私だけの旦那様」
私の言葉に、シャルルははにかみ笑う。
その表情にはもう、一点の曇りもなかった。
あれからさらに、一年が経った。
レリア夫人……、お義母様はお義父様と一緒に城で暮らすようになった。
本来であれば、別邸に移り住むのが慣例だけれど、私が提案したのだ。
そうすれば、シャルルがまた寂しい思いをせずに済み、今度こそ家族団欒という時間を取り戻せると思ったから。
その提案により、お義母様は城に移り住み、お義父様とシャルルと三人の距離は、少しずつだけれど家族として縮まっているように感じる。
そして今日、そんな両家の家族に見守られ、私とシャルルの結婚式が執り行われる。
「リリィ」
シャルルが私の名を呼ぶ。
私もそんな彼に向かい笑みを浮かべ、その名を口にする。
「シャルル」
シャルルが、私の顔を覆っていたベールをそっとめくる。
そして、ふわりと優しく唇が重なる。
二度のやり直しの時を経て、前世で果たせなかった思いが、ようやく実を結んだ瞬間だった―――
夜、静かな部屋の中で二人、シャルルと私は並んで語り合う。
「……こうしていると、まるであのときのようね」
「むしろ、二度のやり直しの方が夢を見ていたのではないかと思うくらい、今が幸せで、ふわふわしている」
シャルルの言葉に、私はクスリと笑いながら頷いた。
「そうね。 ……でも、夢ではない。
確かに私達は、今日ようやく結ばれたの」
「……長かったね」
「えぇ、とても」
繋がれた私の左手と、シャルルの左手には、揃いの指輪が光っていた。
それを見て、シャルルは静かに口を開いた。
「『ロミオとジュリエット』、君が言う通り確かに良い話だと思う。
けれど願わくば、僕達が思い描く結末は」
「「やっぱり“幸せな結末”が良い」」
シャルルと私の声が重なる。
シャルルは驚いたように目を見開いた後、私の大好きな笑みを浮かべる。
「リリィ」
そう名を呼び手を広げるシャルルの胸に、私は勢いよく飛び込む。
彼は慌てたように抱き止めてくれながら、二人で顔を見合わせ、笑い合ったのだった。
一度目、私と彼は巡り合い、恋に落ちたが“残酷な結末”を迎えた。 それに耐えきれず、運命の歯車を狂わせることを願った私が選んだのは、“幸せな結末”を迎えるためのやり直し。
そうして迎えた二度目、約束通り私を迎えに来てくれた彼のことを、何一つ思い出すことなく誤解したまま、私は命を落とした。
そして三度目、私を迎えに来てくれた彼と巡り合い、再び恋に落ちる。
そして、誓う。
今度こそ、繋いだ手を離さない。
死が二人を分かつまで、最期の時まで時を共にすると。
そうして、私達が思い描く“幸せな結末”を巡る運命の歯車は、今はまだ、回り始めたばかり―――
END
この度は、『逆行した姫は運命の歯車を狂わせたい〜二度目の人生、何故か前世で死の元凶だったはずの皇子の妃になってしまいました〜』をお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は、物語中に出させていただいた小説『ロミオとジュリエット』をハッピーエンドにするにはどうしたら良いかを考え、結果、作者の大好きな“やり直し”をしよう!という結論に至り、執筆させていただきました。
“運命の歯車を狂わせたい”という題名にこだわったこの作品、楽しんでお読みいただけていたら嬉しいです。
作者の多忙時期と重なり、執筆更新がマイペースとなってしまい申し訳ございませんでした。それでも読み続けて下さった皆様、深くお礼申し上げます。
次回作は書き溜め次第の更新とさせていただきますので、お待ち頂けると幸いです。
また、作者の初書籍化作品『その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜』の第1巻が講談社Kラノベブックスf様から発売されておりますので、是非お手すきの際にお読み頂けたら嬉しいです。
最後になりましたが、投稿する度にいいねを付けて下さった皆様、ブクマ登録、ポイント評価で応援して下さった皆様、お読み下さった皆様、本当にありがとうございました!
2022.6.21.




