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それから暫くカルハと何気ない会話をしているうちに、目的地の集会所に着いた。
そこはフルーレンの丁度中央に位置していた。
中央付近には老若男女様々な人がたむろしている。
そびえ立つ大きな門が特徴的な、木造の建物があった。
この広場周辺は他の場所より明るく、上を見上げると、ここだけあまり枝や葉がないので多くの日光が差し込むようになっていた。
建物の前に人混みができており、人々をかき分けその正体を見れる位置に移動する。
そこにいたのは筋骨隆々の髪のない男と、何故か見覚えのある茶髪の少女だった。
「お父さん!?」
カルハはそこにいた男を父と呼んだ。
「嘘だろ!?あれが君のお父さんなのか?」
「そうです。というか向かいにいるのはトコマさんじゃないですか!」
なんとこの子はトコマさんのことも知っているようだ。
「おおっ、カルハか。隣の奴は誰だ?少し待ってろ。このクソババアをボコボコにしたらそっちに行く」
この子の父、つまり私の探しているラキアは、一言でその場の空気を緊張させるような荒々しい声で言った。
「彼女はソーラ君だ。それよりもクソババアだと?君の目はどこを向いているのか?今日こそテメェのハゲ頭の中身をぶちまけてやるよ!」
トコマは周りに人が集まってるのが見えないのか、噛み付くような勢いでラキアに突っかかる。
頼むから清楚で綺麗な命の恩人という俺の中のイメージを崩さないでほしい。
「トコマさんもお父さんもなにやってんの!こんなところで喧嘩しないでよ!」
「魔法が世界を救うとか信じこんでるバカの頭を冷やしてやるんだよ!ありもしないものに固執して周りが見えてない大バカをな!」
太い指でトコマを指しながらこっちを見る。
私も魔法なんて信じていない。だが、それなら何故この世界には魔法なんて言う言葉や概念があるんだろう。
「ハッハッハッハー!魔法を信じない愚か者は消し炭になれ!見るがいい!座標指定型低範囲爆破魔導!キラリンボム!」
トコマさん……、その名前はちょっとどうかしてる。
魔法の詠唱と思わしきものを口ずさんだ後、ラキアに向けて右手を前に出し、その手に乗っている紫色のキラキラした粉に息を吹きかけた。
粉は周囲に待った後、地面にばらまかれた。
「馬鹿野郎っ!こんなところで何しようとしてやがる!」
ただ粉を吹いたように見えたが、ラキアは相当慌てている。
「全員離れろ!」
瞬間、私の体は爆風と共に石畳の地面へ叩きつけられ、また、カルハも同じように後方へ飛ばされていた。
次第に辺りには火薬の独特な匂いが充満する。
周囲の人々は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく。
爆発の中心をみると、石畳は剥がれ、近くにいた2人は地面に倒れ込んでいる。
当然だろう。あんな近くで爆風を食らったのだから。
「何が魔法だ!その粉全身に浴びて自爆しろ!」
起き上がり身体に付いた砂埃を払いながらラキアは言った。至近距離で爆風を食らってはいたが、これといった大きな怪我はないようだ。
「調合の配分を間違えたか?いや、まだ調合例2が残ってる。その配分量であれば……」
どうやらトコマは次のテロを起こすことに夢中なようで、汚れたのを気にも止めずに何か考え込んでいる。
誰があの人を逮捕してくれないだろうか。
暫くすると、騒ぎを聞きつけた衛兵らしき人が数人やってきて、トコマとラキアを連れて行ってしまった。
この場に残された俺とカルハはただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「いやーすまんすまん。私の予想ではラキアをだけを華麗に吹き飛ばせるはずだったんだけどな。反省しているからさっさとここから出してくれ」
牢屋の中で椅子に座っているトコマは、懲りる様子もなくそんなことを言った。
1回本当に頭を診てもらった方が良いんじゃないのか?
ちなみにラキアも捕まりそうになっていたが、一応被害者ということで注意だけで済まされた。
「爆破テロを起こしたのはこれで何回目だと思ってる。貴様の反省しているほど当てにならない言葉はないと署では有名になってるぞ」
呆れたような表情で衛兵さんは言った。
「大丈夫。同じ失敗は二度とすることはない!」
「そういう問題じゃない。二度とするなと言ってるんだ」
「それなら次は辺り一面を凍らせる魔法を開発しようか」
「誰がこいつを説得出来るやつを連れてこい!」
それから罪状と弁償金の書かれた紙を渡された後、1週間ほどはここで留置されることを告げられた。
「待ってくれ!店はどうするんだ。君が何とかしてくれるのか?」
「私の仕事はあなたを見張ることだけですので、あなたの店の事情は知りません。」
「そんなぁ……」
ふと、そばにいた私と目が合った。
その目が次第にキラキラしてくる。
「そうだ。ソーラ君は家がないだろう。1週間ほど店に泊めてやろう。何、家賃は要らん。掃除をしてくれるだけでいいさ。」
「それはありがたいですけど……」
そう、私は今帰る家がない。だからこの申し出は願ってもないことのはずなのだ。
だが、私はこの人のことを何も知らない。なんの店なのか、そもそもなんでこの人はここまで私を信用しているのかもわからないままだ。
「会った時からそうでしたけど、私みたいな素性の知らない人間をなんでそこまで助けてくれるんですか?」
当然の疑問を口にした。
「うーん……。なんでと言われればなんでだろうな。多分、君が私の妹のように見えたからかもな」
と言って笑顔で親指を立てる。
意味不明な理論だが、彼女の目には一点の曇りもない。
「全く意味が分からないんですが……」
呆れて軽く笑ってしまった。
「あんたそんな性格じゃあいつか後悔しますよ」
「あいにく私はこの性格を治すつもりはないよ」