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トコマさんの店を出た私は集会所にいるらしいラキアさんを尋ねることにした。
少し散策してみてわかったことだが、この街はとても広い。遠くの方で30階層のオフィスビルくらいはありそうな大木が所狭しと並んでいる様子が見える。
あんなものこれまで生きてきた中で見たことがない。
街の至る所にも巨大な木が植えてある。
木々から青々とした葉が生え、まるで天井のように人々を雨風から守っているのだろう。
木々の隙間から木漏れ日が差し込み所々に光の線が立ってるのはとても綺麗だ。
街中には川が流れていて、水には困らなそうに見える。
不思議な街だ、と直感的にそう思った。
だが、私の知る限り地球にこんなに大きく育つ樹木は無いはずだ。こんな木々に囲まれた街も聞いたことがない。
どうやら、本当に元の世界とは違う異世界に来てしまった実感が湧いてきた。
正直元の世界の記憶はあまりないけれども、全てを思い出すことができたら戻る方法も探していきたいな。
私は集会所までの詳しい道をトコマさんに聞くのを忘れ、この街の風景に心を踊らせていた。
見知らぬ土地で一人、地図も持たずにふらふらと歩く。それはつまり、迷子だと言うことだ。
「非常にまずいぞ」
こういう道に迷ってる時には決まってやべぇやつに絡まれたりするもんだ。
私はビクビクしながら周りを見渡し、まるでデパートで迷子になった子供のような足取りで道を歩く。大通りから外れたところだからだろうか、通行人はほとんどいなかった。
「あの……大丈夫?」
「ハヒィ!」
急に声をかけられ、アホみたいな大声を出してしまう。
ああクソ、なんなんだ今日は。
突然現れたピンクの髪の少女は私の声に驚いて少し距離を取った。今日は少女とよく会う日なのだろうか。
「何がお困りだと思いましたが……すみませんでした!」
そう言ってそそくさとこの場を立ち去ろうとする。
「ま、待って!集会所までの道のりを教えてくれないかな!」
走って逃げる体制を取っていた少女は少し警戒を解き、
「なるほど。この街に来るのは初めてですか?なら任せてください!旅行者の案内は何度かやったことあるんです!」
元気な声でこちらに振り向きそう言ってくれた。
「私も集会所には用事があるので一緒に行きましょう!」
話す中で少女は探していたラキアさんの娘だという。トコマさんの紹介と言うからてっきり怪しい人かと思っていたが、娘がいるとは思いもしなかった。
「私の名前はカルハです。年下だと侮らないでくださいね!これでも私、輪廻会のフルーレン担当導師見習いなんですから。」
フルーレン、輪廻会、担当導師、また聞いたことの無い単語が出てきたぞ。
「フルーレンはこの街の名前です。木々に守られた安寧の街。1度は来てみたいランキング2位の街です!」
「なるほど。この国の名前なんだね。とてもいい名前だと思うよ」
「そうです!貴方もこの街の素晴らしさが分かりましたか?興味を持ってくれたなら是非とも輪廻会フルーレン支部に入会することをおすすめします!」
「あはは、考えておくよ。」
獲物を見つけたかのように距離を詰めてきてる。
トコマさんといいこの子といいなんでこんなにグイグイ来るんだろう。とても目が怖い。
「そうだ。ラキアってどんな人なんだ?」
「ラキアは私の父ですけど、雰囲気や体格は私と似ても似つかないです。それにしても、うちの父に何が用があるとは珍しいですね。」
「知り合いが悪蟲について知りたい時はその人を尋ねろって言われたんだ」
「なるほど。確かに家の父は悪蟲について人一倍詳しいですけど……、素直に教えてくれるかなぁ?」
詳しく聞いたところ、カルハは幼い頃に母を悪蟲によって亡くしていて、父と2人で暮らしているそうだ。母の仇をとるために、ラキアは10年も前から悪蟲の研究をしているらしい。
「私としては父にそんな危ないことはして欲しくないんですけどね。やっぱり平和に暮らしていくのが1番ですよ。」
そう言ってカルハは目を伏せてしまった。