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 どれだけ待っただろう。ようやく岩ダンゴムシ達が動き出した。だが、あいつらのところに戻る訳には行かない……。

 あいつらが森の中を動く限りバカでかい音を出してしまう。

 なんでわざわざ木々をなぎ倒しながら進むんだよ。

 私がまたカマキリみたいなのに見つかっても身を守れる保証はない。




 草むらから少し顔を出してみると眼前には川が見える。

 ガサガサと大きな音を立てながらこの場を離れると共に、川と近くの道を眺め、これからやらなくては行けないことについて思いを馳せる。

 「とりあえずまた初期装備に戻った感じだな。」

 また歩くしかないか…………。

 長い時間同じ格好をしていたから体が固くなっている。

 俺は伸びをするために大きく腕を上にあげた。





 どうしてここで音を立てたんだろう。


 どうしてここで伸びをしたのだろう。


 私はあいつの執念深さを、この世界の狡猾さを、心の底ではバカにしていたんだろうか。






 もうここにはいないと誰が言った?

 そんな奴の声が聞こえた気がした。



 伸びをするために掲げていた両腕の感覚が無くなった。


 状況が理解できずに腕のあった場所を見てみると、肘から先が跡形も無くなっていた。


 「…………え?」


 音もなく現れたそのカマキリは


 木にでも登っていたのだろうか、逃げきれたと思い完全に油断していた私の背後に現れ、


 恐らく獲物を捉える為ではなく、獲物を切り刻むために発達したであろう両手の剣を静かに振るった後だった。


 「あっ……あっ…………。」


 今の自分の状況を理解できず、両腕の断面を見ている私は、まともな声を出すことすらできなかった。



 ジワジワと血が滲んでくる。ものすごい勢いで飛んでいった私の両腕が、静かに川に落ちる。



 腕が川に落ちると共に大きな波紋が立つ。


 私の腕から大量の血が流れ、川ではみるみる水面が赤く染まっていく。



 「きゃああぁぁぁ!!!!」




 痛い!痛い!痛い!なんであいつがここにいるんだよ!!!諦めたんじゃなかったのかよ!!!ああもう!!!

 どうすればいい!痛い!そうだ川に飛び込もう!痛い!頭が回らない!!!だけどもうそれしかない!!!


 全力で走る!!!服が濡れて沈むとか手がないから泳げないとかそんなことは考えるな!!!生きるために走るしかないっ!!




 パニックになった私を当然見逃すはずはない。振るい終わった剣を構え直し、剣道で言うところの突きの要領で勢いよくそれを前に伸ばし、引っ込める。

 たったそれだけ、シンプルかつ美しくも見えるたったそれだけの動作で、私の胸には縦一直線に風穴が空いていた。


 「ガッ……。ゲホッ……」


 胸から口からもドクドクと血が流れ、ドサリと音を立てながらうつ伏せで地面に倒れ込む。

 手がないので受け身を取れずに顔をもろに打ってしまった。


 呼吸ができない。

 胸が辛いので必死になって仰向けになる。


 肺に穴が空いてるのか……?

 肋骨が折れてるのか……?

 誰が……助けて…………。


 土を踏む音がする。近づいてきてる。私はどうなるのだろう。食われるのか? ちくしょう、あと一歩で川だって言うのに。こんなところで死にたくない。

 せめてこいつを殺さないと……!





 不意に、かなり遠い位置から爆発音が聞こえた。

 その振動の余波が私の死にかけの胸や腹、体全体に響き渡る。空には、その爆発により驚いた蝶達が至る所で飛び回り、まるで絵画のような世界が広がる。

 死ぬ前にこんなにも綺麗な景色を見せてくれるとは、

 神様も少しはできるじゃないか……。

 存在を全く信じていない神とやらに感謝をしておく。

 それと同時に地面の振動が大きくなっていく。


 霞んだ目に、カマキリと、その後ろの迫ってくる巨大な2つの岩が見えた。

 その岩は驚いて周りが見えていないのか、私とカマキリに向かって砲弾のような勢いで迫ってきた。


 カマキリはその岩を避けようとしたが、咄嗟の出来事すぎたのか対処出来ず、鈍い音とともに吹き飛ばされ川に落ちていった。

 岩ダンゴムシ達はカマキリと衝突したものの、その勢いを緩めることなく激しい音と振動を立てながらどこかへ行ってしまった。


 目の前にひとつの剣が上から降ってきて見事に地面に刺さる。

 きっと奴の腕が折れたのだろう。

 何が起きたのか、これは助かったのかは分からないが、俺が餌になるという最悪の事態は避けられたようだ。


 「あはは……。ざまぁみろ……」


 そうつぶやき、最後の力を振り絞って、空を見上げる。

 腕の痛みはもう無くなり血も止まっている。不思議だ。


 「こんなとこで死ぬのか……私……」

 「ごめんなさい……。ごめんなさい……」


 私の独り言に答えるように誰かの声がした。

 泣きながら、何かに謝っているようだ。でもそれが何に謝っているのかは分からない。

 誰だ……?女性の声のような気がする。ダメだ……。意識が朦朧としてきた……。

 本当に死が近いのか、目はかすみ、全身の痛みも薄れてくる。



 「あなたを巻き込んでしまって……、ごめんなさい……」


 また声が聞こえた。

 その言葉を理解する前に私の意識は完全に途切れ、深い闇の中へと沈んで行った。

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