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とりあえずこいつらは岩ダンゴムシと呼ぼう。
岩にしては少し弾力のある背中に乗りながら私はそんなどうでもいいことを思いついた。
現在は川を少しだけ外れて森の中の道無き道を進んでいる。
少し外れるくらいなら川にはすぐ戻れると思い、そのまま背中に乗ることにした。
岩ダンゴムシが動く度にパキパキミシミシと音を鳴らしながら木々がなぎ倒されていく。
めちゃくちゃうるせぇ。
警戒心なんてものはまるでないような素振りだ。
あのバッタを見た時、私は放射能で突然変異したと予想したが、それならこいつらはなんなんだ?
突然変異で岩になるなんてことがあってたまるか。
そんな進化ダーウィンが許しませんよ。
放射能の突然変異じゃないとしたらこいつらはここで長い時間をかけて進化したということになる。
昆虫が大きくなるには酸素濃度が高くないといけない。
だが私は別段なんともない。酸素濃度は関係が無いのだろうか?
そもそも酸素濃度なんて専門の機械がないと調べられないんだからどうしようもないね!
大きさについてはまぁ置いといて……なぜこんなに岩のような外見をしなければならないのかだ。私の知ってるダンゴムシはちょっと黒っぽい見た目をしている。しかし何かに擬態しているような感じではない。
それに対してこいつらはパッと見岩にしか見えない。というか岩だ。叩いてみるとコンコンと音がする。
岩にでもならないと敵の攻撃から身を守れないのか?敵を欺くことができないのか?
そんなレベルの動物なんて見たことないぞ……。
ここではあまり油断しない方がいい気がする。そもそも今まで見た動物がバッタとダンゴムシってのもおかしい話だ。
小鳥や魚はどうした。
起きてからそれらしき影も見たことがない。
突然岩ダンゴムシの動きが止まった。
一瞬にして辺りが静寂に包まれる。
なんだ?
ガサガサッ!
突然、背後から草が擦れる音が聞こえた。
動物か?小動物ならいいがイノシシとかクマだったら嫌だな。虫はもっっっと嫌だな!
しかし嫌な予感は当たるもので、目の前に現れたのはウサギでもなくイノシシでもなく虫だった。
胴体はカマキリだが、全長は優に2mを超えているだろう。鎌の部分は両刃の剣のようになっている。刀身は30cm程、目測だと詳しい所までは分からない。一体あの剣でどう獲物を捕らえるのだろうか。
頭部はコウモリのような豚のような、特徴的な鼻をした動物の顔になっていた。
何故か頻繁に首を傾げている。
こいつに至ってはそもそもちゃんとした進化でこうなったのかどうかのかすら怪しい部類だ。
頭のイカれたヤバい博士が発明した合成獣キメラとかの可能性はないだろうか。
こんな大きいやつが迫ってきていたのに私はついさっきまでこいつに気づけなかったのか……?
いや、岩ダンゴムシ共がでかい音を立てながら歩いてるせいじゃねぇか!工事現場みたいな音立てやがって!
周りの音全然聞こえなかったなそういや。
ほんとにこんな体でどうやって暮らしてきたんだ?
不安になってくる……。
カマキリ?はつかず離れずの位置でこちらを見ている。
正直あの剣じゃこいつらには傷一つ付かないだろう。
岩ダンゴムシ(小)でさえ狩れるのか怪しい。
そうだとすると、あいつは何を見てるんだ……?
とても嫌な予感がする。全身から嫌な汗が吹き出す。
もしかして……君が狙ってるのって……
私!?
あっ。目が合った……。
目が合うとほぼ同時に、カマキリモドキが目にも止まらぬ速さでこっちに向かってきた。
やばいやばいやばい
この岩ダンゴムシどもは多分私を守ってくれない。
そうだよね。あんなのがいるんだから岩にでも進化しないとやってらんないよね!
私も今すぐ岩になりたい。
そういやこいつらいつの間にか進むのをやめてやがる。
おいふざけんな!動けよ!逃げろよ!
だがそんなこと言ってる場合ではない。あいつは確実にこっちに向かってきてる。
岩ダンゴムシ(大)の大きさは3mもあるから、カマキリの剣はきっと届かない。が、この上まで登ってこないとも限らない。
どうしようどうしよう……。
一か八か降りて川に向かってみるか?
幸いにも岩ダンゴムシ達は川からあまり離れなかったようだ。近くに川が流れる音がする。
あまり木が生えてなく、背の高い草が多く生えている所を見つけた。
近くにあったとても大きな倒木をザッと見た感じ、日光を浴びれるようになった草たちがのびのびと成長できる環境になったのだと推測できる。
もし見つかったとしたら、川の中に逃げよう。濡れて困るようなものも今は持っていない。服は後で乾かせばなんとかなるだろう。
このまま何もしない訳にも行かないし、全力で草木を掻き分け走って川に向かおう!
3…………!
2……………………!!
1………………………………!!!
私は岩ダンゴムシの上から、カマキリの死角になる位置へ降りた。次に、目的である倒木の近くの草むらの中へ突っ込んだ!
この世界の草は私の背丈よりも少し低いくらいのものが多いから、屈めば体を隠すことが出来る。
そのまま息を止め、コウモリの顔をした悪夢のような生命体が私の姿を見失うのを待った。
あいつは私が草に隠れたとほぼ同時に岩ダンゴムシ(大)の方へ向かい、今は背に登って私を探している。
やっぱり登れたか……。
あのままあそこにいたら殺されていた……。
さてと、ここからだ……。
私はカマキリが諦めるのをひたすら待った。
岩ダンゴムシ達が動き出せば多分安全だろう。
あいつら妙に気配に敏感だからな。
悲しいがここでお別れだ。また会ったらいい石を食わせてやろう。そもそも石を食ってるのかはわからんけど。
ここからは持久戦だ……。
最低限の呼吸しかしない。私の吐く息で見つかったとかシャレにならんからな。
………………。
…………。
……。